😎 宮崎不良・族

>>41
蛆虫がうるせぇ!!

なんだと！
（ﾟДﾟ）

>>41
ご要望にこたえて続きを書きますが、時間がなくて書けない日があるかもしれません

モロッコの辰１
汽車は大変な混みようだった。座席にはすわれず、めいめいが通路に腰をおろした。
このときモロッコの胸中に去来したものは何だったのだろうか。
「もうその時点で、自分の胸がどれぐらい具合が悪いかわかっていたんだろうな。『どっちにしろ、すぐ帰るよ』
というのを、オレも兄貴も口から聞いたことがあったよ。だから汽車の中ではずっとすましていたよ、本人は」
と春彦氏が当時のことを回想する。春彦氏はこの汽車の中でモロッコが一、二度クスリ(ヘロイン)を打つのも目撃している。

モロッコの辰１
都城には一昼夜かかって翌日の昼に着いた。徴兵検査の結果は、モロッコの予測した通りのものとなった。
肺浸潤による不合格で、その日のうちに帰されることになった。むろんすぐには横浜に帰れるものではなかった。
あれほど盛大な壮行会を開いて、多くの人が祝ってくれた手前、みっともなくてしようがなかった。
「ええい、しばらくこっちに泊まりこむぞ」モロッコは怒ったように他の三人に宣言した。
こうしてモロッコはそのまま都城の旅館に泊まり続け気ままな日を過ごしている。
昼はブラッと四人で散歩に出たり、ときには春彦氏を連れて小林村(現在の小林市)のモロッコの親戚の家にも顔を出している。

モロッコの辰１
モロッコはよっぽど恥ずかしかったのか、横浜に帰ってからもしばらくはおもてにも出ないでひっそりと家に閉じこもっていたという。
やがてモロッコ夫妻は半年間住んだ中区弥生町のアパートを出て、鶴見区下末吉にと引っ越している。
おふじさんが長男を出産したのは、この下末吉に引っ越してまもなくのことだった。
モロッコはこの子に自分の名を一字とって龍彦と名づけている。

モロッコの辰２
「モロッコ？……むこうみずのところはあったけど、やさしさがうんとあった人だよ」
といって、目を細めたのは、前橋に住む寄居分家三代目・飯久保武総長であった。
大正十五年生まれの飯久保は、昭和四十九年から寄居一門のたばね役ともいえる全日本寄居連合会会長をつとめる神農界(テキヤ社会)の重鎮。
モロッコはこの飯久保総長の人生の上をも鮮やかな光芒を残して駆け抜けていった男だったようである。
飯久保がモロッコの辰と出会ったのは、戦時中のことであった。

おせっかい失礼するけど

何かの本を丸写しで書いてるなら著者の了解を得てなければ
著作権法違反で逮捕されちゃうよ。

最近勝手に人の本の文章をネットに書いたり
テレビ局の番組を勝手に動画であげて逮捕されてる人多いから気を付けたがいいよ。

>>48
ですよね…

受け売りはアウト(‾▽‾;)

わかっていましたが、逮捕されるのは嫌なので止めます
(・∀・)ﾉ

>>50
ちびっとだけオリジナルで書けば大丈夫だよ…


まるごとパクりで書いたらアウトだけどね…

19画 かあ28より天職やわ

モッコリの辰

夜桜銀次

モロッコの辰
（メ｀ω´）

シブイねこのスレ！

モロッコの辰２
飯久保がモロッコの辰と出会ったのは、戦時中のことであった。
大正十五年、前橋で生まれた飯久保は尋常高等小学校を卒業して昭和十六年に上京。
海軍志望だったこともあって中野高等無線へ入学するが、やがて日増しに戦局が悪化していく中、学徒勤労労働員によって川崎の日本鋼管へと狩り出される。
これに伴って飯久保は中野の学生寮から川崎・下丸子の下宿へと移ったが、モロッコと出会ったのはこの時期である。

モロッコの辰２
この時期、飯久保のまわりには同じような勤労動員の不良学生や硬派学生らが集い、飯久保を頭にして一派を形成するようになっていた。
飯久保も子供の頃から家業の家(養父が寄居分家二代目の飯久保新造)に育って、早くからこの家業の帝王学を学び、自然に長となる風格を身につけていたのである。
喧嘩度胸も誰よりも持ちあわせていた。
この飯久保一派とモロッコ軍団がハチあわせしたのが、東急目蒲線の電車の中だった。
モロッコの面々はみなソフト帽をかぶり、ひと目で不良とわかるスタイルである。そのうちの何人かは飯久保たちを見て、微笑みさえ浮かべてる。
まるでおいしい菓子を目の前にした子供のようにうれしそうだ。

モロッコの辰２
一方の飯久保たちとて一歩もあとへは引かなかった。目蒲線で少しは知られたグループの意地にかけても、相手になめられるわけにはいかなかった。
「おまえら、どこの不良だ」
さっそくバンをかけて(喧嘩を売って)きたのは、モロッコの側である。
「学生(セイガク)か。たいそういきがってるじゃないか」
舌なめずりせんばかりに一人の男が近づいてきた。そのときである。
「ちょっとまて」男を制する低い静かな声があった。男は立ち止まって振り返る。声の主はグループの中でももっとも背の低い男だった。
チビといわれた飯久保よりさらに小さかった。だが、その男がグループの頭であることは誰の目にもあきらかだった。それが飯久保にとって、モロッコの誰との初めての出会いであった。

「次だ」モロッコは電車のドアの方へゆっくりとあごをしゃくった。次の駅で降りようという意味だった。誰もがそれにうなずく。
両グループは東急目蒲線の武蔵新田駅で降りると、少し歩いた線路わきの空き地へと集結した。そこで思う存分やりあおうというわけである。
互いに代表を一人ずつ選び、いっさい道具を使わず、一対一の、素手の喧嘩(ステゴロ)勝負だった。
当時の愚連隊の喧嘩はみなこの方式によるものが多かった。名の売れた目ぼしい相手を選んではこれに挑み、立会人を置いて一対一のステゴロ勝負を競うのである。
勝ったほうがその日から兄貴分だった。
こうして京浜筋を制覇してきたモロッコの名は横浜中の愚連隊に知れ渡っていた。

「よし、勝負だ」相変わらずモロッコの声は低かったが、戦いは宣せられた。
飯久保側の代表とて、めったに喧嘩ではひけをとらない腕に覚えのある人間だった。飯久保は自信をもってこれを送った。
だが、この自信はあっというまにくつがえされることになった。
「バシッ」「バシッ」と相手のくりだすパンチは的確に顔面に炸裂し、まるで大人と子どもの戦いになるまで時間はそうかからなかった。
「ちきしょう！相手はボクシングをやっているじゃねぇか！」誰かが叫んだが、遅かった。
モロッコ軍団はモロッコをはじめとしてほとんどが日頃からボクシングを習っており、かなりの腕を持つ連中ばかりで、とうてい飯久保たちが勝てる相手ではなかった。
「こうなりゃしょうがねえ、素手なんかでやってられるか！」飯久保たちは手近に落ちている丸太ん棒を拾いはじめた。
「よし、上等じゃねえか！」モロッコ一派も身構える。あわや大乱闘寸前だった。

飯久保武総長が当時を振り返ってこういう。
「そのとき、『もういいじゃないか』」って先方を止めてくれたのが辰ちゃんだった。
われわれのほうが完全に負けたんだけどね。それにもかかわらず、辰ちゃんは決してバカにもしなかった。『うまくやろうや』って、それからは仲良くなった。
年齢的な差もあったんだろうけどね。むこうがいくらか兄ィだから。深いつきあいはしなかったけど、それからは会えば、蒲田の西口の盛り場で焼酎をおごってくれたもんだよ」
そのとき一対一のステゴロ勝負でこっぴどくやられた飯久保総長側の代表を見て、「手当てをしてやれ」と配下に命じたのもモロッコだったという。
やられた男はモロッコグループの一人が住んでいる武蔵新田のアパートへ連れていってもらい、治療もうけている。
「なんていうか、モロッコの辰ちゃんっていう人は、やさしかったし、さっぱりしてた。昔の不良の純粋なところを持ったまんまの人だったと思うな」
と飯久保総長は約四十年前のことを振り返った。

モロッコの辰２
横浜の人口密集地域がＢ２９爆撃機による徹底的な焼夷弾爆撃をうけたのは、昭和二十年五月二十九日のことだった。
いわゆる横浜大空襲である。
この日、Ｂ２９五百十七機がＰ５１戦闘機百一の護衛をうけて空襲、午前九時すぎ、横浜市神奈川区青木橋周辺に大型焼夷弾と焼夷集束弾を投下したのを皮きりに、
一時間あまりの間に大型焼夷弾二万二千二百二十四個、小型焼夷弾四十一万五千九百六十個を市の中心部に投下した。
死者三千七百五十人、行方不明三百九人、負傷者一万百九十八人という被害があったといわれる。

モロッコの辰２
「よく落としやがるな」モロッコはあきれたように、Ｂ２９の大群を見上げていた。
このときモロッコ夫妻は、鶴見区下末吉のアパートを出て、浦舟町の一戸建ての家に住んでいた。
夫人のおふじさんの両親と一緒だった。家には電話まで引いてあったというから、当時としては文化的な生活を送っていたようだ。
だが、この横浜大空襲によってモロッコ夫妻は焼け出され、おふじさんの両親も弥生町に持っていた小料理店「弥生」が焼かれてる。
のちにモロッコはおふじさんの両親のために屋台を買ってあげ、戦後、夫妻はおふじさんに手伝ってもらいながら商売を再開したという。
「親を本当に大事にしてくれる人だったよ」とおふじさんはいう。

モロッコの辰２
昭和二十年八月十五日、戦争は終わった。
戦争(空襲)による横浜市の総被害者数は、死者四千六百十六、重症二千四十二、軽症一万二千百七十三という記録が残っている。
米軍指令部が横浜海運局(前横浜税関)に設置され、「進駐軍総指令部」の看板が表玄関に掲げられたのは、八月二十八日のことだった。
ただちに進駐軍千二百人は、三十日より横浜進駐を開始した。
進駐区は弁天橋、大江橋、柳橋、羽衣橋、豊岡橋、蓬莱橋、港橋、花園橋、吉浜橋、西野橋、前田橋、谷戸橋、山下橋を結ぶ大岡川の港に面した中区の一部(関内)だった。

モロッコの辰２
『昭和二十年八月三十日は横浜市民にとって忘れることのできない日となった。
進駐軍総指令部設営の地、その横浜は旧市街の九割五分が戦禍をこうむり、市街地は荒涼たる破壊の姿をさらけ出したままである。
この荒廃はあたかも市民の心を象徴するかのように残暑の陽光を浴びて沈黙している。』と当時の毎日新聞(九月一日)が伝えている。
戦争はモロッコに荷物をももたらさなかった。しいてあげれば、肺浸潤とニヒリズムを増長させたにすぎなかった。
そして無秩序と混乱と荒廃の戦後がいやおうなしに訪れた。進駐軍は決して横浜に秩序をもたらしてくれなかった。
進駐軍の増加に伴って、進駐軍兵士による暴行、物品強奪、強制購入、金銭強奪、女子誘拐等の事件が続発、混乱になお拍車をかけたのである。

モロッコの辰２
さらに地元市民による陸海軍の軍需物質の略奪、あるいは強盗、強奪、殺人事件が連日連夜あとを断たなかった。
とりわけ住居侵入強盗事件は日本刀を持ったものが多く、その大半を占めているのは復員軍人くずれといわれるものである。
アナーキーな混沌とした時代が一挙に花開いた感があった。横浜愚連隊にとって黄金の昭和二十年代の幕開けである。
モロッコは冷ややかにこの自宅を迎えはしたが、時代はこの天性の反逆児をスターに押しださずにはおかなかった。あっという間に戦後横浜愚連隊のチャンピオンになったのである。
いわばモロッコは混沌と荒廃の象徴ともいうべき昭和二十年代とともに生き、昭和二十年代とともに死んだ男だった。今風のことばでいえば、昭和二十年代と寝た男だった。

モロッコの辰２
戦後の第一歩をモロッコは刑務所での生活を余儀なくされた。
昭和二十一年、モロッコは兄弟分の井上喜人とともに傷害、恐喝などで横浜刑務所に収監されたのである。
モロッコが一年、井上が三年の刑であった。
二人は収監されると、たちまちのうちに横浜刑務所の全囚人を支配してしまったという。
ところが、二人を一緒に置いておくとロクな結果にならないと判断した刑務所側は、二人を切り離す作戦に出た。そのため、井上は前橋刑務所へと移されている。
「モロッコの兄貴は刑務所でも大変な顔だったらしいよ。自分の歌をつくって中の印刷所で刷らせたりしているんだ。
昔、マレーの虎という映画があって、その主題歌でマレーのマリマオという歌が流行っただろ。
あれと同じ節でさ、『京浜のモロッコ』なんて自分の替え歌をつくってさ、それを刷らしてるんだ。
そんな茶目っ気もあったんだな」というのは、おふじさんの実弟の春彦氏である。

モロッコの辰２
モロッコの歌については、もうひとつエピソードがある。モロッコの元舎弟でいまはカタギの高橋氏がこういう。
「それとは別に、当時熱海にあったダンスホールの楽団のマスターがモロッコのために『モロッコの辰』という歌をつくってくれたことがあったな。
モロッコが店に入ると、マスターはその曲を演奏してくれるわけだ」

横浜刑務所を出たモロッコは水を得た魚のように、以前にも増して暴れまわる生活を送るようになっていた。賭場荒らしもお手のものだった。

モロッコの辰２
「辰ちゃんはわざと学生服を着て大学帽をかぶってガジリ(賭け)荒らしにいくんだ。
みんなは何も知らずに学生だと思ってバカにするんだが、あとでモロッコの辰ちゃんとわかると、
『エーッ！』といって驚くわけさ」(高橋氏)
「名のある博徒の親分のところへも賭場荒らしには行っていた。金がなくなると、そのカタに拳銃をとりだすのさ。
どんな偉いヤクザ者でも、モロッコの辰という名を聞いただけで顔色を変えていたよ」(関係筋)

゛負けがこむや、モロッコは背広の内ポケットから例によって二挺の拳銃を取り出した。
モロッコは、拳銃を中盆に向けた。中盆の顔が引きつった。まわりの客の顔からも、血の気が引いていった。
一瞬、賭場が死んだように静かになった。モロッコは、にやりと笑った。Ｓ＆Ｗ・Ｕ・Ｓ・アーミーＭＩ９１７を盆の上にごろと転がした。
「こいつで五千円だ！」と大下栄治の『修羅の群れ』で描写されているとおりの光景が現出していたわけである。
モロッコは金がきれると、自筆の名刺を持たせて若い衆を使いに出した。名のある親分のもとへである。
名刺には「金〇〇円拝借つかまつり候」と書いてあって、あとは「モロッコの辰」というハンコ代わりの自筆のサインしかなかった。
ところがこの名刺をうけとって、指定通りの金額を出さなかった親分はいなかったといわれる。

「゛モロッコの辰゛と自分で書くんだが、辰という字は゛龍゛という字。それがまた独特なんだ。
いまの芸能人のサインじゃないけど、誰にも真似できないようなはねるとしか書かれていないのが、大金に化けるんだからな」
とは何度か使い走りの経験があるかつてのモロッコの若い衆だった関係者の話である。
「モロッコの若い衆ですが、モロッコの使いでまいりました」
といって黙って件の名前をさしだすと、あいてはていねいに応接間に通してくれる。

そこの若い衆はお茶を運んでくるが、モロッコの使いできた人間はそれに手を触れようとしない。
姿勢を正し、身じろぎさえしないで、相手からの目的の代物を持っている。
やがてその目的物を受けとると、そこで初めてお茶を一口飲んで早々に引きさがってくる。それが、モロッコ流であった。
ときとして、「これをモロッコさんに」とモロッコの要求した金額をもらう他に、「これを若い衆さんの車代に」と自分の車代までおまけがつくことがあった。
あるとき、例によって「モロッコの辰」の名前を持っていった先の親分は、名前を見るや、
使いのほうが気の毒になるほどあわてだし、バタバタと身のまわりの物を風呂敷につめはじめ、女房を質屋に走らせることまでしたという。
それがはたして本当に金がなかったのか、あるいは「こんなに金に困っているオレを恐喝することないだろ」という演技だったのかはわからない。
それほどモロッコという名は恐れられていたのだろう。

モロッコ辰２
モロッコの辰が現在の稲川会稲川聖城総裁の若い衆になったのは、昭和二十三年のことだったといわれる。
その翌二十四年の春、稲川総裁は引退する石井二郎親分の跡目をとって山崎屋一家を継ぎ、熱海の縄張り(シマ)持ちになっている。
稲川の若い衆になったのを機に、モロッコはおふじさんともども熱海に移り住んでいる。
それにしても不思議なのは、この天性の愚連隊気質を持ち、おそらく他人の風下に立つことを何よりも嫌ったであろうモロッコが、親分持ちの身になったという事実である。
逆にこの一事をもってしても、いかに稲川総裁という親分が若いころから大きな器量の持ち主であったかどうかがうかがい知ることができよう。

モロッコの辰２
「モロッコは生涯愚連隊で終わったよ。博打打ちに惚れて稲川総裁の若い衆になったのではなく、稲川総裁の男っぷりに惚れ込んで若い衆になったんだと思うよ」(消息筋)
おふじさんもこういう。
「辰ちゃんはいつも、『オレは一匹狼だ。親分は絶対持たない』っていってたよ。だけど稲川さんのようないい親分を持った。
何か助けてもらったことがあったんじゃないのかね。何があったかはわからない。男がから女にはしゃべらないからね。『修羅の群れ』のようなことがあったんだと思うよ」
『修羅の群れ』では、モロッコが前途のような賭場荒らしを行っている過程で、稲川総裁と出会い、その貫禄に圧倒されている場面が活写されている。

゛男は、じろりとモロッコを見た。威圧感のある視線だった。稲原龍二であった。
賭場は一瞬、静まりかえった。龍二は、じっとモロッコと拳銃を睨んでいたが、おもむろに懐に手を入れた。
胴巻きから百円札の束を取り出し、モロッコの前にポンと放り投げた。
「おい、ここは喧嘩場じゃねえ」モロッコの前に放った札は、相当な額であった。
モロッコは、大きな目をひんむいて稲原龍二を見た。貫禄の差はかくせない。何か得体の知れない威圧感に、モロッコの方が、度肝を抜かれた。゛
このあてしばらくしてモロッコは、前橋刑務所を出所した兄弟分の井上喜人とともに稲川聖城総裁のもとを訪れ、若い衆になっているのである。

モロッコの辰２
長男の龍彦を連れて、横浜から熱海に移ったモロッコ夫妻は、一時期、咲見町にあった当時の稲川事務所に寝泊まりしていたこともあったが、
多くは同じ咲見町にある旅館で暮らすことになる。
モロッコとおふじさんとの間にできた次男が、この世に生をうけることなく死産に終わるのは、このころであった。
おふじさんはこの次男を熱海の無縁仏に葬り、花を一本そなえたという。
「稲川の親分———あの人は大親分になる人でしたよ。並の器じゃなかったね。
当時、二十二歳くらいの私に、『これで若い衆にメシ食わしてくれ』ってくれたお金が百万円。
私はそのころ事務所に住み込んで、若い衆のご飯炊きなんかやってましたからね」
とおふじさんは当時のことを回想する。おふじさんの記憶に狂いがなければ、当時の百万円というのは、いまのお金の数千万にあたり、大変な金額である。

モロッコの辰２
「あのとき辰をちゃんは死ぬところだったんだよ」とおふじさんがいい、
「兄貴のことで一番印象に残っているのは、あの台風のときのことだね」と春彦氏がいうキティ台風が発生したのは昭和二十四年のことだった。
キティ台風は同年の八月三十一日に相模湾から上陸、関東南部では風速二十メートルを超す暴風が吹き、
東京では最大瞬間風速三十・七メートルを記録したという。
全国の死者・行方不明は百六十人。船舶の被害も大きく、とくに横浜港では、停泊中の九十隻のうち二十六隻が沈没した。

モロッコの辰２
このとき、春彦氏や森川信のマネージャーだった、”キズ虎“こと都築寅男とともに熱海の街を駆けずりまわったのがモロッコであった。
「あの人は町内の消火活動とか、そういうのによく出た人なの。そのときも熱海には水が出てひどかったからね。
家が浸水された人におにぎりを配ったり、救助活動したんだろうね」(おふじさん)
キティ台風は熱海の街にも大きな被害を与えた。海岸道路の半分が根こそぎ削がれ、お宮の松は斜めに傾いたほどだったという。

モロッコの辰２
「夢中になって動いていたんだけど、兄貴は活躍する前にひっくり返っちゃった。
波に持っていかれて、つるやの隣りの錦水旅館の玄関にうちあげられちゃった。
それで見ると兄貴の額にはポッカリと穴だけあいてるんだ。血も出てないんだ。大変だったよ。
まあ、そんなこともあったんだよ」(春彦氏)

このとき春彦氏やモロッコと一緒に動いた“キズ寅”こと都築寅夫は、モロッコの浅草時代の若い衆だったという。
春彦氏は半年ほど熱海にいただけで、そのあとすぐに小田原の井上喜人の若い衆だった近藤鉄男のもとに預けられている。

モロッコの辰３
モロッコの辰と林喜一郎と佐藤義雄の三人が歩いていた。橋の前に出た。
とみると、むこうから一目で愚連隊とわかる一群が橋の上を渡ってくる。その数、四人か五人。
佐藤義雄と林喜一郎は思わず顔をあわせてほくそ笑む。
ともかく三度のメシより暴れることの好きな連中である。格好のカモがむこうから飛びこんできたのだ。
「ようし、一丁目やるか！」佐藤義雄は舌なめずりをしながら、早くも上着を脱ぎ始めた。
「まあ、まてよ」うしろから声をかけたのがモロッコだった。モロッコは背広を脱ぎ、例のモロッコハットを佐藤に放り投げた。
「いいか、佐藤、林」ニヤリと笑った。「喧嘩ってのはこうやるんだ」

モロッコの辰３
いうが早いか、モロッコは相手の群れに飛びこんでいた。
あとは講談にあらわれる牛若丸対弁慶の世界である。ちょうど舞台も格好だった。
弁慶相手に橋の欄干から欄干を飛びはねる牛若丸さながら、モロッコの体は宙を飛んだ。
蝶のように舞い、蜂のように刺した。
モロッコはボクシングでもそうとう鳴らした男だが、なにより喧嘩殺法に勝てる相手はいなかった。
モロッコは生涯、不敗を誇った男である。
その日、モロッコに出会った愚連隊こそ不運だった。その橋さえ渡らなければ、痛い目にあわずに済んだのである。

モロッコの辰３
橋の上でノックアウトされた男たちの歯がみを尻目に、モロッコ、林喜一郎、佐藤義雄の三人はゆうゆうと橋を渡っていった。
このときばかりはモロッコの一人舞台、さすがの林喜一郎も佐藤義雄も出番がなかった。
林喜一郎といえば、後年は林一家総長として稲川会の最高幹部(特別相談役)をきわめ、
昭和六十年十一月二十日、他界。
稲川会の功労者として、同年十一月二十四日、横浜市中区山元町の西有寺において稲川会葬がとり行われている。
若いころはモロッコ、井上喜人、吉永金吾とともに横浜愚連隊四天王と称されたほどの男であった。
また佐藤義雄も、「カラスが鳴かぬ日はあっても、モロッコ軍団の暴れない日はない」
といわれたモロッコ軍団の長兄の格の一人として、モロッコの行くところ、つねにその姿が見られたものだ。

モロッコの辰３
この佐藤に限らず、モロッコ軍団———モロッコの舎弟群像をみると、これまた多士済々、いずれも親分のモロッコ同様、一癖も二癖もある男たちがそろっていた。
なかでも特筆すべきは佐々木鳴夫と“塚越の辰”こと塚越辰雄の二人であったろう。
「佐々木鳴夫は佐藤義雄と兄弟分だが、二人はモロッコ軍団にあって、右大臣と左大臣のような存在だった。
佐々木はモロッコと同じように結核で死んでしまったんだが、死ぬのはモロッコより早かった。
たしか二十七歳のときだ。佐々木という人は美男子でね、その奥さんがまたきれいな人だったけど、やはり結核で佐々木より早く亡くなってしまった。
佐々木鳴夫はずばぬけた才能を持った人だった。
この二人の系列(舎弟)には、いま稲川会で理事長補佐(昭和六十一年当時)の役職にある川上三喜親分(横須賀一家川上組組長、甲府一帯に地盤を築いている)がいる」(消息通)

モロッコの辰３
もう一人の逸材、“塚越の辰”こと塚越辰雄にはこんな逸話が残ってる。
あるとき横浜・黄金町で日本人と朝鮮人の愚連隊同士がもめ、
双方ともに大勢の仲間を呼び集めてにらみあい、あわや一触即発という状態になったことがあった。
どちらも手に日本刀や拳銃を持っており、いったんぶつかってしまえば、流血の事態は免れなかった。
そこへ登場するのが、塚越の辰である。
「ようよう」とばかりに塚越が現れたと思いきや、そのまま敵である朝鮮陣営の真っ只中へと歩き始めたのだ。
その動作があまりに堂々としていることもあって、誰もがあっけにとられてしまった。
ことに朝鮮側は気をのまれたのか、誰一人として攻撃を仕掛けようとする者さえなかった。
たった一人の塚越に、大勢の荒くれどもが威圧されていたのである。

モロッコの辰３
結局、塚越が一人で話をつけ、抗争をおさめてしまった。
「そのときの様子を見ていたんだろうね、ある朝鮮人のおばさんが、
『塚越の辰っちゃんというのは惚れ惚れするくらい、カッコよかったよ。敵ながらあっぱれだったよ』
って、しみじみ話すのを聞いたことがあった。
この塚越の辰という人も、モロッコの舎弟だけあって、どっちかというとニヒルな人だったね。
ものすごく喧嘩の強い人でね、やっぱりボクシングをやっていたんだな」(消息通)
この佐々木鳴夫と塚越辰雄が陣頭指揮をとってモロッコ軍団が東京まで出張るという事件が起こったことがあった。

モロッコの辰３
夜だった。昼の喧騒が嘘のように静まり返り、星さえ出ていた。むろん東京一の賑わいを誇る浅草とて例外ではなかった。
そんな夜の静寂の中を三台の車が勢いよく走っていた。三台ともめざすは浅草のある旅館だった。
むろん泊まるためではない。ある男に追い込みをかけるためだった。
やがて目的地に着くや、車はすべりこむように旅館の前に停車した。
「ヤロー！こんなところにしけこみやがって」
先頭の車に乗っているのは塚越の辰だった。「オイ」と助手席の舎弟に声をかけた。
「ここはオレ一人でいくから降りないでくれ、とうしろの車に伝えてくれ」
「わかりました」塚越の舎弟はさっそく塚越の命令を伝えて車を降りた。

モロッコの辰３
うしろの二台の車には佐々木鳴夫と林喜一郎が乗っていた。
塚越の辰は上着の内ポケットに手を入れてブローニングの冷たい感触を確かめると、ニヤリと笑った。
いつのまにか兄貴分のモロッコの癖がうつってしまったようだ。
「よし」とブローニングの手ごたえに充分満足すると、車を降りて、めざす旅館を身やった。
うしろを振り返ると、佐々木鳴夫の顔があった。
「いいから、いいから」と、塚越は佐々木を手で制して、それから車を指さした。すわって待っていてくれという意味である。
佐々木もニヤリとしてうなずき、車の中へと戻った。
ここは塚越の辰っちゃんにまかせようという暗黙の了解である。

モロッコの辰３
再び旅館に向けた塚越の目は、一瞬、怒りできらめいた。
「ヤロー、許さねえ！」
相手は戦後の新宿西口に一大勢力を築いた有名な若山組・若山登組長(仮名)の実子である若山守であった。
といっても、守はヤクザではなく、日本大学の相撲部に籍を置く学生。いってみれば、父親の若山登組長の勢威をカサに与太っていた不良学生だった。
その若山守が不良学生仲間と連れだって湯河原に遊びにいったときのことである。
若山は地元の稲川会(当時は稲川組)関係の若い衆と喧嘩になり、相手をたたき斬るという事件を起こしてしまう。そのあげく、
「オレは新宿の若山登のせがれだ。文句があるならいつでも来い！」というタンかをきって帰るのである。
相撲部だけに腕っぷしが自慢のバカでかい男だった。

モロッコの辰３
このオトシマエを担当することになったのが、モロッコ軍団だったわけである。
陣頭指揮をとったのが、佐々木鳴夫と塚越の辰の二人。特別参加は林喜一郎だった。
その日、車三台で横浜を出発したモロッコ軍団の一行は新宿に着いてその周辺をさぐったが、若山守の居所はつかめず、
夜中になって、ようやく浅草の旅館にいる若山守の所在をつきとめることができたのである。
「若山守を呼んできてくれ」応対に出てきた旅館の女中に、塚越は静かにいい放った。
やがていままで寝ていたのだろう、眠そうな目をこすりながら浴衣姿の若山が出てきた。

モロッコの辰３
塚越を見た若山は一瞬ギョッとした顔をみせたが、すぐにいつもの傲岸な態度に返り、挑むように塚越をにらめつけると、
「何だ、オマエは」といい放った。
「わかってるだろうな。オレと一緒に来るんだ」塚越はあくまで静かではあったが、持ち前の凄みのある声でこう宣言した。
「何ｲ！このヤロー！」若山は精いっぱい虚勢を張ったつもりだったが、声がふるえていた。
相手にいままでとはあきらかに違う凄みを感じたのである。守は、生まれて初めてといっていい不安を感じていた。
「来いといってるんだ。」塚越は繰り返した。
「オ、オレだって、新宿の若山のせがれだ。わけのわからないところへは行かれない」若山守は天下の若山登組長のせがれといういつもの切り札に賭けた。