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天使の都の現状
昨年北フランス、そして本年3月と9月に南フランスの警察隊指導に引続き、11月末、タイの首都バンコクで総合実戦護身術功朗法のセミナーを行った。バンコクは日本からわずか6時間の距離だが気温はがらりと変わる。セミナーは日本の寒さに慣れた私にとって、凶器との闘いではなく気温との闘いだった。ムエタイのトレーナーや他武道の経験者などに混じって、自分が所持する拳銃まで用意して、対凶器護身を学ぼうとする熱心な女性弁護士もいた。
4日間の短い滞在だったが、私は急成長を向かえた東南アジア独特の、エネルギッシュな熱気を全身でたっぷりと感じた。人、車、汗、埃、そして軒を寄せ合う建物。文化遺産と現代建築が混在した街で、人々はより恵まれた生活環境を手に入れようと必死で生きている。
しかし、こうしたエネルギーはポジティブな方向へ動くものだけではなく、安易でネガティブな方向を目指すものもある。バンコクは天使の都と言われ、アジアの中でも比較的治安がよいイメージがあるが、殺人、強盗等の凶悪犯罪は人口比で日本の数倍発生している。窓には分厚い雨戸をつけ、金属の格子を入れ、ドアは3重、4重にロックをする。ここで生活する人たちは、日常生活のごく自然な行為として、ドアやベランダの鍵を何重もかけたり、分厚い雨戸を閉めたり、周囲の不審者に気をくばったりする。さらに街には放し飼いの犬が多数闊歩し、狂犬病も撲滅されていない。
日常的に危険は存在し、その危険を何気なく遠ざけながら、彼らの1日は終わってゆく。露天で見かける竹細工の籠のように、観光客にとっても危険と歓楽が交互に編みこまれた街である。