はいはい暇人暇人 前回は
>>189
その短刀は自らの手首を切り裂いていた。だらだらと垂れ始める赤い血。
「暴走を止めればいいんだろ、おい」
「……あなたは」
混乱するさつきをよそに会話は続く。
「勝手にしてください。私はこの夜の原因を突き止めなければなりません。いきますよ、セブン」
ふいっとそっぽを向いたかと思うとそのまま身を翻して去っていった。一体なんなんだろう?
考えているうちに。
「そら。腹が減って動けないんだろ?」
おいしい食事が目の前に差し出されていた。瞬間、何も考えられずにむしゃぶりついていた。
彼の血は格別だった。存分に、とまでは行かないもののとりあえず動けるようになるくらいまでは飲ませてもらい。
「あなた……どうして私を?」
素直に疑問を口にした。傷口は吸血鬼の唾液でふさがるとしても、これから何かをするには危険だ。
「どうせ一晩限りで千切れて消える身だ。そう惜しくはないだろう」
そういって彼は立ち上がり。
「っ」
ふらついたけれど持ち直した。
「体は軽くなったし、目も覚めた。いい準備運動だったよ……そろそろ行くか」
じゃあな、地獄でまた逢おう。と彼は去って行く。そんな彼に私は。
「待って!」
「なんだ?」
足を止めた彼に。誠心誠意を込めてお礼の言葉を言った。
今の自分に出来そうなことと言ったらこれくらいしか無い。
「あ、ありがとう! 志貴君」
「はぁ。守れない約束なんてするもんじゃないよなぁ、本当」
「え?」
その時、彼が何を言ったのかは聞き取れなかった。
「礼を言われるほどのことじゃあない。ちょっとした約束、だ」
「?」
「いや、気にするな。今度こそ、じゃあな。志貴をよろしく、さつき」
最後まで格好良く、彼は去っていった。疑問を込めた視線で見送る事が、今の弓塚さつきに出来る事だった。