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🪓 メルティブラッド攻略・地方


No.654720
合計:
#224
前回は>>223 例によって例の如くエピローグ。


舞台を去った後の役者に残されていたのは、ある種最高で極上のご褒美だった。
公園のほぼ中心、気紛れに足を進めてきた先に。そいつがいた。

「貴様、は」

流石の七夜志貴にも緊張が走る。いや、緊張で済ませられない衝動。
血が沸く、肉が踊る。歯がかちかちと鳴り、全身に震え。
膝はだらしなくもがたがたと揺れる。

「む……七夜? 久しいな」

あぁ。ここまで人を殺したいと思ったのは。初めてだ……。
秋葉なんかとは比べ物にならない圧倒的な、最早質量的な威圧感。
そして七夜は理解する。血は、争えない。

「久しぶりだな。紅赤朱。それとも軋間紅摩と呼んだほうが御気に召すかい?」
「どちらでも構わん。しかし、驚いたな。よもやこんなところで黄理の息子と見える事になるとは……
 いや、この不可思議な夜にこそか」
「貴様も、呼ばれた口か。まぁそうでなければ出てくることもあるまい」
「その口調だと、本当の七夜志貴であるようだな。遠野、その家の眷属ではないらしい」
「……俺は七夜志貴。遠野志貴から派生した在ったはずの可能性だ。
 そう考えてみるとお前は親父だけじゃなくて俺も殺したことになるな」

沸騰する血、そこから出る蒸気は殺意。自然、顔が笑みに形作られる。

「お互い、数刻で消える身。となると、後はもうこれしかないよなぁ」

短刀を右手に。やや体を斜めに傾けて相手を睥睨する。

「───確かに、望んでいなかったと言えば嘘になる。
 いいだろう。来るがいい殺人鬼」

ぞくりと走る震えは紛れも無く武者震い。

「ああ、脳髄がとけちまうほど殺しあおうぜ……!」

それが、合図。この怪夜の中でも最大級の決戦の火蓋が落とされた瞬間だった。


七夜志貴は誰よりも理解していた。掴まれる事が、死に直結すると。
可能性として殺された以外にも、一度悪いユメの中でも殺されているのだ。
ついでに言ってみると遠野志貴は偽者と戦い、勝利を収めている。

「斬刑に処す」
「小賢しい!」

一度目の交錯。超高速の動きで繰り出される短刀はしかし一刀たりとも紅摩に効果を及ぼさず。
死の線以外を切っても無駄だと言う結論に達することとなった。迫る紅摩の腕を後ろ宙返りで下がって避ける。

「斬るっ!」
「終わりだ!」

二度目の交錯。宙返りから姿勢を低くした七夜はその全力を足に込めて。
弾丸をも超えんという速度で射出、線を断ちに行く。
対して紅摩の方は、その体を浮き上がらせての跳蹴り。
結果、線を外した斬撃と、低空を空振りする蹴りがすれ違うのみ。
いや、蹴りに近かった七夜の髪は少し焦げた感触を得ていた。

「はっ!」
「ふはは……」

三度目の交錯。それも全ての攻撃の空振りと言う結果に終わった。
七夜志貴は攻撃を当てられる距離にまで到らず。軋間紅摩は全ての攻撃をかわされて。
しかし、余裕の度合いが違う。
死の線が見える=とどめの攻撃範囲がそこに限定される七夜志貴。
そもそも、死の線を断たない限り軋間の体は鋼よりももっと固いだろう。
ただ腕を振るだけで周囲の空気を根こそぎぶちまけていく軋間紅摩。
その豪腕の前では七夜の体など、紙屑よりも柔な存在だろう。
有利不利は明確。それでも七夜志貴は。舞台で見せなかった最悪で最凶の笑顔を見せていた。

「その首、俺が貰い受けるっ!!」
「でぇい!!」

再度の交錯。紅摩の死角である右から、奇怪としか言えない動きで首を狙いに行く七夜の短刀。
それを腕の一振りで引き下がらせる紅摩、それによって七夜は大きく体制を崩し。
左足に全体重が乗る。

「蹴り穿つ……っ!」

そこから放たれた裂帛の蹴りはしかし、紅摩の体を傷つけるには到らないけれど。
反動で、その巨体を浮き上がらせることに成功した。

「ぬあっ!」

そしてそのまま空中で行われた攻撃は、神業。
浮き上がった体を追う七夜。
地に着かぬ巨体は、七夜を薙ぎ払う決定的攻撃が出来ず。
あまりにも近距離過ぎて攻撃の予備動作すら行えないのだ。
そう、七夜志貴は相手の領域である近距離を超え、更に踏み込むことによって必殺のチャンスを得たのだ。
そして大胆にも、その細い腕で相手の丸太の如く太い腕のやや上。肩を捕まえて。

「そらっ!」

短刀を力の限り振り下ろす! その軌道は確実に死の線を捉えていた。


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