女性の口から零れたのは、純粋な疑問だった。
それに対し、ネロと呼ばれたコートの男は、
「無粋なことを聞く。何が起きてもおかしくはない、怪夜であろう」
とだけ言い放った。
レンはこの様子を傍観していたが、いつでも逃げ出す準備は出来ていた。
しかし……ネロの隙を見出だせず、十歩の間合いから離れられない。
女性の方は臨戦態勢を取ってはいたが、踏み込みの機会を見出だせずにいた。
ネロはというと、周囲の獣を従えながら……ただ立っているだけだった。
だが、均衡は意外な形で破られる。
ネロを囲んでいた"鹿"が、レンに向かって飛び出した。
逃げることのみを考えていたレンは、その突撃を回避し切れず、全身で受けてしまう。
「……は……ぁっ…!」
思わず漏れる、小さな吐息。
だが、それは意識せず強制的に肺から押し出されたもの。
鹿は更に力を込め、少女の身体を痛め付ける。
服が裂け、僅かな血と白い肌が覗いた。
「……っ…」
鉄製のフェンスが、みしみしと悲鳴を上げた。
鹿の角が柔肌に食い込み、
「!!」
ばきり。
嫌な音がした。
レンの全身に、意味もなく冷たい汗が吹き出す。
呼吸もおぼつかない。
激痛の中、レンは姿を変え……結果、黒猫は鹿の足下をするりと抜ける。
鹿はフェンスへと激突し、それを破り、更にその向こう側へと倒れ伏す。
レンはよろめきながらも何とか立ち上がり、小さな氷柱で倒れた鹿に止どめを刺した。
鹿が消えるのを見届け、レンの身体は崩れ折れた。
それに対し、ネロと呼ばれたコートの男は、
「無粋なことを聞く。何が起きてもおかしくはない、怪夜であろう」
とだけ言い放った。
レンはこの様子を傍観していたが、いつでも逃げ出す準備は出来ていた。
しかし……ネロの隙を見出だせず、十歩の間合いから離れられない。
女性の方は臨戦態勢を取ってはいたが、踏み込みの機会を見出だせずにいた。
ネロはというと、周囲の獣を従えながら……ただ立っているだけだった。
だが、均衡は意外な形で破られる。
ネロを囲んでいた"鹿"が、レンに向かって飛び出した。
逃げることのみを考えていたレンは、その突撃を回避し切れず、全身で受けてしまう。
「……は……ぁっ…!」
思わず漏れる、小さな吐息。
だが、それは意識せず強制的に肺から押し出されたもの。
鹿は更に力を込め、少女の身体を痛め付ける。
服が裂け、僅かな血と白い肌が覗いた。
「……っ…」
鉄製のフェンスが、みしみしと悲鳴を上げた。
鹿の角が柔肌に食い込み、
「!!」
ばきり。
嫌な音がした。
レンの全身に、意味もなく冷たい汗が吹き出す。
呼吸もおぼつかない。
激痛の中、レンは姿を変え……結果、黒猫は鹿の足下をするりと抜ける。
鹿はフェンスへと激突し、それを破り、更にその向こう側へと倒れ伏す。
レンはよろめきながらも何とか立ち上がり、小さな氷柱で倒れた鹿に止どめを刺した。
鹿が消えるのを見届け、レンの身体は崩れ折れた。