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2024/04/23 15:48
爆サイ.com 南東北版

🪓 メルティブラッド攻略・地方





NO.654720

【君も作れる】あなざーすとーりー2【物語り】
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#1012006/02/19 22:41
女性の口から零れたのは、純粋な疑問だった。
それに対し、ネロと呼ばれたコートの男は、

「無粋なことを聞く。何が起きてもおかしくはない、怪夜であろう」

とだけ言い放った。
レンはこの様子を傍観していたが、いつでも逃げ出す準備は出来ていた。
しかし……ネロの隙を見出だせず、十歩の間合いから離れられない。
女性の方は臨戦態勢を取ってはいたが、踏み込みの機会を見出だせずにいた。
ネロはというと、周囲の獣を従えながら……ただ立っているだけだった。

だが、均衡は意外な形で破られる。

ネロを囲んでいた"鹿"が、レンに向かって飛び出した。
逃げることのみを考えていたレンは、その突撃を回避し切れず、全身で受けてしまう。

「……は……ぁっ…!」

思わず漏れる、小さな吐息。
だが、それは意識せず強制的に肺から押し出されたもの。
鹿は更に力を込め、少女の身体を痛め付ける。
服が裂け、僅かな血と白い肌が覗いた。

「……っ…」

鉄製のフェンスが、みしみしと悲鳴を上げた。
鹿の角が柔肌に食い込み、

「!!」

ばきり。
嫌な音がした。

レンの全身に、意味もなく冷たい汗が吹き出す。
呼吸もおぼつかない。

激痛の中、レンは姿を変え……結果、黒猫は鹿の足下をするりと抜ける。
鹿はフェンスへと激突し、それを破り、更にその向こう側へと倒れ伏す。
レンはよろめきながらも何とか立ち上がり、小さな氷柱で倒れた鹿に止どめを刺した。
鹿が消えるのを見届け、レンの身体は崩れ折れた。

[匿名さん]

#1022006/02/19 22:56
◇5・共闘
「アルクェイド、そちらに行きましたよ」

浅い眠りの中で、レンが聞いたのはそんな声だった。

「分かってるわよ、シエル」

それに対して言い返す、アルクェイド。
言いながらも、腕の一振りで烏を打ち落とす。
ようやく、レンの意識が覚醒する。
そして思い出したのは、少し前のアルクェイドの言葉。

──勝った方が"先に行く"ってことで……

「…………」

アルクェイドは、ずっとレンを尾行していたのだ。
もしかしたら、その少し前……首を振り続けた辺りからアルクェイドは"わざと負けて、先に行かせるつもり"だったのかもしれなかった。
今となっては、そんなアルクェイドの背中を見つめることしか出来ないが。

そんな風に見つめられているとも知らず、当のアルクェイドは、

「シエル、後で何か奢ってよ」

戦いながらも、女性……シエルと談話していた。


「断ります。目的は一緒なんですから、貸し借りは無しです」

その言葉にアルクェイドはむっと頬を膨らませながら、

「そんなことばっか言ってると、志貴に嫌われちゃうよ?」

迫りくる獣の群を、腕の一振りで塵に変えていく。
蒼い衣の女性、シエルはというと、

「遠野君は関係ありません!!」

目にも止まらぬ高速移動を繰り返し、四方八方から別の獣達を切り刻む。

「レン、ここは食い止めるから用事済ませてきちゃいなさいよ」

アルクェイドの右手が、早く行け、とばかりにひらひらと振られる。
戦いの最中にありながらも、それを感じさせない楽しげな仕草。
レンは戸惑いと驚愕の表情を、ほんの僅かだが、浮かべる。

アルクェイドはそんなレンを見て、にっこりと微笑んだ。

その笑みすらもレンには理解出来なかったが、アルクェイドは既に戦場に戻ってしまった。
残されたレンには『行かなければ』という思いだけが置き去りにされる。

──目の前は戦場……では、あなたの後ろには何があるのかしら?

そんな声が聞こえる。
紛れもなく、それは自分の声。
レンはゆっくりと振り返る。
後ろには、信頼という名の道があった。
行かなければ。走らなければ。
そんな衝動が、レンの足を動かす。
鹿の突撃による傷で上手く呼吸が出来ない。

しかし、それでもレンの身体は止まらなかった。

[匿名さん]

#1032006/02/19 23:26
◇6・それは純白の……
「しまった…っ!!」

異常気象ともいえる気候。
一面に広がる降り積もった雪が、少年──遠野 志貴の身体から自由を奪う。

「ふふ…遊んでらっしゃい」

凛とした声が、雪原に響き渡る。
同時に、氷の触手が地面を這い、倒れた志貴に襲いかかった。

「………っ!?」

触手が、志貴の目の前で寸断された。
澄んだ氷の刃によって。

「……レ…」
「今更、何をしに来たのかしら?」

傷だらけで、服も乱れて、息も絶え絶えのレンが立っていた。
目の前には対照的に、傷一つなく、純白の服を着こなし、目を細めたレンがいた。
白い、レンがいた。
志貴は、2人のレンが余りにも自然過ぎることに困惑を覚えていた。
そして、

「……あなたは私を拒絶した…。
昏い所に押し込めて、」

白いレンが僅かに力を込める。
途端、目にも止まらぬ早さでレンに向かって無数の氷柱が沸き起こる。

「見ないフリをしたのよッ!!」

氷柱が、止まる。レンの眼前で。
僅かに先端がレンの頬を掠めていた。

「あなたにだって、私を止める権利なんかないわ…!!」

レンは流れ出る血を拭おうともせず、白いレンを見据え、

「…………」

何も言わなかった。
白いレンは僅かに目を細め、口を開く。

「……いいわ。あなたを殺して私が"あなた"に成り代わってあげる…!!」

[匿名さん]

#1042006/02/20 00:27
◇7・白と黒と赤
「……!!」

レンが身構えるより早く。
白いレンが、残像さえ見えるほどの動きでレンを蹴り上げた。

「ワルツはお嫌いかしら?」

不意打ちを食らったレンはすぐに体制を立て直し、白いレンに向き直る。
が、

「…もっと楽しみましょう?」

懐に潜り込んだ白いレンが、レンの身体を突き上げた。

「───!!」

声にならない悲鳴。
折れた肋骨と、圧迫される肺。
身体の中が押し潰されそうになって、

「やめろッ!!」

それを止めたのは、志貴だった。
レンの背後から握った短刀を突き出し、白いレンの肩を刺す。

「ッ!!……邪魔よ!!」

白いレンは一瞬だけ顔をしかめるが、

「アン…」

そのまま意識を集中させて、

「ドゥ……!!」

全力を込めて、

「トロワ!!」

志貴とレンを、凄まじい衝撃が襲った。
一瞬にして大気を凍り付かせるほどの莫大な力が放出され、次の瞬間には白いレンは無数の氷柱を生み出していた。
2人の身体はボロ雑巾のように雪の上を転がり、白い景色に跡を残す。

「…ッ………レン…!!」

先に起き上がったのは、志貴だった。
白いレンとの間にレンがいたため、加えられる力も少なかったのである。
当然、爆心地にいたレンは相当な痛手を負っているはずなのだ。

だが、志貴が駆け寄る前に。

「……だ…め…」

それは紛れもなく……白いレンではない、レンの声。
血に濡れたレンがゆっくりと立ち上がって、両手を広げた。

「な…っ」

白いレンは、信じられないモノを見るかのように目を見開き、叫んだ。

「なぜ立ち上がれるの…!?」

そうして、レンは歩きだした。
もう一人の自分に向けて、足を、一歩ずつ……前に出す。

「……こ…ッ!!」

「レン、行っちゃ駄目だ───!!」

「来ないで!!」

[匿名さん]

#1052006/02/20 01:44
◇8・決別
ずぶり。

白い氷柱が、黒い衣を貫いた。

「……あ…」

レンの身体が、白いレンに覆い被さる。

───……私たちの問題に、他の人を巻き込んじゃいけない。

それは、思念のみの会話。

───…あなたなら、上手くやれるはず。

それは、互いの心が通じ合っている何よりの証拠。

───ほら。あなたの後ろには、何がある…?

はっとして、気付く。
背中に、レンの両手が回されていた。
それは死にゆく者の手であるはずなのに、

「……暖かい…」

白いレンの瞳に涙が浮かんで、ほろりと落ちた。

りぃん……

鈴の音が、一つ。
雪原に…寂しげに響いた。



◇9・物語の終わり 後編
「……あ、ここにいたのか」

小部屋の扉が開かれ、入って来たのは志貴だった。

「レンがどこにもいないって、みんなが心配してたぞ?」

……どうしてこの人は、こうなんだろう。

「あの……」

どうしてこの人は、

「ん?」

「どうして、」

どうしてこの人は、

「私を"レン"と呼べるのですか?」

どうして、私と距離を置かないんだろう。

「……それは、」

両腕が私の背中に回される。
ぎゅっ、と力が込められて。
耳元に熱い吐息が。

「………"あんなもの"より、君の方がずっと殺し甲斐があるからさ」


今、何て?


「ずっとこの時を待っていた。途中、気付かれるとも思ったが……最後まで上手くいくと反って後味が悪いね、全く」

何を言ってるの

「邪魔な奴等は君があらかた片付けてくれたからね」

まさか

「俺は"俺を呼ぶモノ"を殺すんだよ」

まさか、あなたは

「バイバイ、レン」



右手に握られた短刀が、レンの背中を貫いた。
骨を砕き、肉を貫き、血管を引き裂き、臓器を破壊する。
即死。小さな身体を殺すには、十分だった。



そして、志貴───七夜 志貴は、口元を歪ませた。

[匿名さん]

#1062006/02/20 01:46
ごめんなさい、無駄に長い上にノリだけで書いたオナニー駄文でしたorz

[匿名さん]

#1072006/02/20 07:50
GJ。けど空白多過ぎね?

[匿名さん]

#1082006/02/20 13:16
セリフの前後の空白は、一続きだと読みにくいかなぁ、と思って入れました
文章中の空白は、時間が止まったかのような、カットインっぽい演出を期待してみました
本当ならそこには挿絵を一つ一つ入れたかったんですけど、時間の関係で断念orz

そういえば最後の方、改行が多過ぎてエラーで消えたっけw

[匿名さん]

#1092006/02/22 02:26
どっちかって言うと読点の多さのほうが気になったかな
メリハリ付ける為に重要な場所で読点打つならどうでも良い所では抜いた方が良い
そして、実は重要な場所なら普通にスペースを入れた方が効果ある
とまあこれは俺の経験からの判断なんだが、どうだろうか?

あとは普通に楽しめました
GJ!

[匿名さん]

#1102006/02/22 02:32
ゴメン、3行目は無かったことにして
書きながら念頭に置いていた某小説のワンシーン読み直したら普通に読点だったorz

[匿名さん]

#1112006/02/22 21:10
>>96
小説好きな友人に相談、って意味かな…?
感想じゃなく文章として評価してくれ、という意思をはっきり伝えられるし、文字じゃなく
面と向かった会話だから、色々と痒いところの評価をもらえる、という「対話」である事への
利点はあるけど、やっぱり文章を読んでるだけじゃなく、実際に書いてる人じゃないと分からない
ことも沢山あるから、そういうのもweb掲載よりマシとはいえ、肥やしにはなり難い。
というわけで、別の話ではあるけど、似たようなモノです。

スポーツだって、部活でちょっと上手いだけの上級生より、プロのコーチに習った方が良いでしょ。
少なくとも、きちんと色々なプロの作品を読んでそこから学んで、それをweb上に沢山ある小説講座とかで
確認していくだけで、文章を書くのがどういう事なのか分かってくる。
別にそれくらい、暇をつのって一人で本取ったりネット検索するだけなんだし、手軽なもんよ?

いーかげん俺のカキコがスレ違いになってきてるんで、レスが途切れたら去ります。

[78]

#1122006/02/22 23:22
78氏に基本的には同意する。文章うまくなるためならWebの小説をあてにしちゃいかん。
だが一方で、そこまで練習しないと書いちゃいかんのか、とも思うわけ。

そりゃ俺だって駄文よりはいい文章を読みたい。
でもせっかく面白いネタを持ってる奴らが文章がうまくないかもという恐れで
書き込まなくなってしまったらこのスレの意味ないんじゃないか?
あと身も蓋もないこと言えば俺はこのスレに名文を期待してないというのもあるしw

まあ俺が言いたいのはお前らもっと話を投下してくださいおながいしますってこった。

[匿名さん]

#1132006/02/23 17:22
>>78みたいに「文章とは〜」とか「プロなら〜」とか延々語り続けられると、スレの門戸が狭くなる。
このスレは結局同人の延長みたいなものだし、メルブラ好きな連中がネタ投下する場所だろ。
プロを目指すって人にはいいアドバイスかもしれんが、正直スレの敷居を高くしているだけ。
誰もが気軽にネタを投下できる、そういう雰囲気がいいんじゃない。

良い事言ってるのは確かだが、あまりしつこいとこのスレにとっては宜しくないぞ?
作品投下されたときにチョコチョコ意見を出すくらいがちょうど良いんだって。

[匿名さん]

#1142006/02/23 18:43
そ、だから消える予定ですと。
その辺が「スレ違い」の意味だったんだけど…。

最初の>>78でも言った通り、もしある程度本気でやりたい人が居るなら、という前提で
書いてるんで、読んで自信にしろ何にしろ「引く」ようなら、その時点で俺のカキコは
全面的にスルーしてしまった方が良い。
別に文章の質が良くなくたって、ネタだけを求めてる>>112-113のような人は沢山います。
そもそもこのスレ自体が、そういう意図のもとに立てられたものだしね。

思いついたネタはどんどん投下すれば良いし、読み返して反省する点とかがあるならそれは
自分の中で積み重ねていって、次のネタをより活かせるように学べば良い。
少なくとも、俺の指摘に引け目を感じる必要は全くありません。

>>112の時点で黙って去っておこうかと思ったけど、>>113でちと俺のせいで荒くなりそうだったんで
念のため、俺自身からの返信を置いときます。
今後もスレを楽しんでくださいな。

[78]

#1152006/02/23 21:14
まぁ、マッタリ行こうぜ!ってことですね
自分もちょくちょく来ますので


…って、書き途中のままにしたやつどうしよう……orz
書こうかな…

[98]

#1162006/03/18 22:24
age

[匿名さん]

#1172006/03/18 23:38
暇があるなら書いて欲しいな。

ってか、78はあれだよな。
スレ違いとわかっているのに、投稿した挙句、
自分でそれ分かってるから叩かないで欲しいってのは何なの?
しかも、ひぐらしがこれだけのブームになっている今、読者が求めてるのは
堅苦しい文法や伝統じゃなく、面白さっていうのは露見しているのに、正統の文章って何よ?
そんなに模ったモノを読みたいなら新聞でも読んでれば?
と、言いたいことだけ言ってみたんだけどさ。
ぶっちゃけ、客観的な視点を持つっていうのは相当に難しいぞ?
78もある程度客観的に見たつもりだろうが。
君のそれは、言いたいことだけ言ったしもう用無いから帰るよ。
ってのと、一緒だぜ?
他人の感想や視点が聞きたいから、こういう場に投稿してるってのを、78は前提として持っておいたほうがいいよ。
後、これ以上は迷惑になるの分かってるから、反論やらはメアドにどうぞ。

[匿名さん]

#1182006/03/21 03:59
夜。
どうして、今夜は静かなんだろうか。

「……亡者どもの声が聞こえないからか」

一人、そう呟く。
街灯の下を静かに歩き、まるでそうするのが当たり前かのように生きる。
生きる。
現世に存在を持たない俺がこうして実感を掴めるとは思ってもいなかったが。

「お前は……俺!?」

ふと背後から掛けられた声に気付き、ゆっくりと振り返る。
あぁ、なるほど。こいつが、

「よう、兄弟」

こいつがそうなのか。
頭で考えるよりずっと早く、身体が動く。

「閃鞘、」

全身の重心を落とし、右手に握ったナイフを構え、左足に力を込めて、

「七夜」

爆発的な加速力を持って、一瞬で敵との距離…約20mを縮める。
前屈みになった上体の筋肉を使い、ナイフで素早く薙払う。

ギィンッ!!

本来なら腹の肉を抉り出していたはずの鋭い一撃は、敵の……俺と同じナイフに防がれた。

「ぐ…ぅっ…!!」
「……やるじゃないか」

少しだけ口許を弛ませる。
ナイフの一撃と同時に設置していた右足で、今度は地面を強く蹴り飛ばす。

「寝てな」

一瞬で死角まで上昇し、くるりと身体を反転させる。
今だ。ナイフを振るう。
確実に首筋を切断するはずのナイフは、文字通り空を切った。

敵は既に距離を取っていて、

「…見えた!!」

ショートダッシュと共に、ナイフを振り下ろして、

──今、「見えた」と言ったのか?

何を見た?
俺の動きが見えたか?馬鹿な。そんなはずはない。
七夜の血を引いているとは言え、(奴の物腰を見る限り)何の訓練も受けてはいない。
そんな奴が、俺の動きを見えるはずがない。
それに、さっきの攻撃の裁き方は咄嗟にとった動作だ。

(……何を見た?)

よく見ろ。逆さになったそいつは、何を仕掛けてきている?
無謀な突撃か?いや違う。そいつは確実に、

(……死点か)

俺を殺そうとしている。

「…っ……はッ!!」

手を伸ばす。身体を捻って着地するのでは遅い。
着いた。じゃり、という音がして左手の平が痛むが、その程度だ。
左足を降ろし、右足を降ろす。身体のバランスを取る。

敵との距離──2m。

もう射程距離か。
奴は確実に俺の死点を突いてくる。
体制は完全に立て直せてはいないが、

「…殺すことにかけては俺の方が上だ」



白刃が閃いた。


続く。

[匿名さん]

#1192006/03/21 04:33
既に静かになった、遠野家。
息を荒げながら、時間を考えずにチャイムを鳴らす人影があった。

「……志貴様…!?」

出てきたメイド姿の少女を見て、チャイムを鳴らしていた人間──志貴はようやく手を止めた。

「志貴様……血が…!?」
「……あぁ、大したことは、ないけどね…っ」

肩で息をしながら、汗をぼたぼたと垂れ流す。

「今、姉さんを…!!」
「…いや、いいよ。休んでれば、よくなる…から…」
「……分かりました。お部屋にお連れします」

自身の服に血が付くことも気にせず、少女は志貴の身体を支えた。



きぃ、ばたん。

部屋のドアが閉まると、志貴はベッドに倒れ伏した。

「…し…志貴、様……っ」

当然、支えていた少女──翡翠は志貴に押し潰される形になる。

「翡翠…」

志貴は翡翠の耳元に熱っぽい吐息をかけ、翡翠の反応を楽しみながら口許を歪めた。

「やっ、だめ……」

先程まで何一つ感情らしい感情を見せなかった少女が、吐息一つで年相応のささやか抵抗を見せている。
その事実が、志貴を昂揚させた。

「……邪魔だな」

眼鏡を外し、ポケットに入れていたナイフで翡翠の服を切り裂いていく。
一枚ずつ、ゆっくりと。音もなく。

「いや……見ないで、ください……っ…」

まず見えたのは、形良く膨らんだ二つの乳房。
頂点にそびえる突起は綺麗な色をしていて、既に固くとがり始めている。
少し盛り上がった乳輪も丁度いい大きさで、やはり透き通っている。

次に見えたのは、肋骨がほんの少しだけ浮き出たウエスト。
引き締まった腰はくびれていて、顔に似合わぬ危険な色香を放ち始めている。

最後は、うっすらと生えた茂み。
そこはまだ幼さを残していて、奥にある秘裂を隠し切れてはいなかった。
だが……既に女の匂いを放っている。

「可愛いよ、翡翠」

言いながら翡翠の耳を軽く舐め、手の平で捏ねるように乳房を揉み、もう片方の手で茂みの奥を探る。

「ぁ……はっ…だめ、ぇ……志、貴…様ぁ……っ!!」

耳の穴に舌を捩じ込み、奥の奥まで掻き乱す。
同時に、ぐちゅぐちゅと音を立てて恥ずかしさを増してやる。
手で押し潰され、形を変えた乳房。
弾力もさながらのこと、突起の感度もなかなかいい。
軽く捻り上げる度に身体を震わせて喘いでくれる。
そして極め付けは、

くちゅり。
にちゅ。
みゅにゅ。

[匿名さん]

#1202006/03/21 04:53
「……何の音かな、翡翠」

その問いに対して、赤面しながら目を閉じることで答える翡翠。
これは紛れもない。翡翠自身が立てている音なのだ。

処女を思わせる締め付けを保ったそこは、既に志貴の人差し指と中指を飲み込んでしまっている。
同時に多量の粘液を吐き出し、指だけでなく手の平をベチョベチョにしてしまっていた。

「ほら。薬指も入りたがってる」
「…む、無理です…っ……これ以上、拡げちゃ……ぁ、あ…っ!!」

くぷっ、にちゅ。

「ほぉら、入ってくよ」
「ぁ……ぁ…や……ひゃぅ、んっ…!!」

三本の指が翡翠の中に飲み込まれ、それぞれが個別に動き出す。

「や…ぃゃ…っ!!中で、動いて、ゃぁ……ゃ、だめぇっ!!」

挿入した指がきつく締め付けられる。
ぶるぶると翡翠の中が、外が振るえ出して、粘ついた汁を多量に吹き出した。

「あ……ぁ…ぁ……っ」

ずるり、と指を引き抜く。
翡翠はまだ放心状態で、両足を拡げたまま身体を震わせていた。

「志、貴さま……」
「どうした、翡翠?」
「……欲、しい…」
「何が欲しいのか、言ってごらんよ」
「…いじわる、しないでください……んっ…」

まだ余韻が残っているのか、翡翠の秘部からピュッと液体が飛んだ。

「……仕方ないな」

志貴はジッパーを降ろし、反り返っている自分の分身を取り出した。
ぴたり、と翡翠の割れ目にあてがい、

「早、く……」

それを聞いてふっと笑い、志貴は腰を一気に進めた。

[匿名さん]

#1212006/03/21 16:01
え〜と、こういうのよかったんだっけ?

官能小説?

[匿名さん]

#1222006/03/21 16:15
以前も志貴と白レンでそんな感じのがあったけど、実際の描写については
うまく省略されてたね。わざとみたいだったけど。

まー、本家が官能なんだし別にいいんじゃ?
気分を害したって人も>>117みたいなのじゃない限りスルーするだろうし。

[匿名さん]

#1232006/03/23 03:44
官能小説というスタイルで書いた意味が感じ取れれば良いんだけどね
と、思ったがしかしここはオナニースレだし、問題ないか……

[匿名さん]

#1242006/03/23 04:52
全国の翡翠スキーが怒った

[匿名さん]

#1252006/03/23 04:58
ごめん、本当は続きあったけど途中で面倒臭くなって……orz

[匿名さん]

#1262006/03/25 01:57
>>124
そうかな?
オレは翡翠スキーだけど素直に上手いとおもた。
そして興f(ry

[匿名さん]

#1272006/03/25 09:27
>>124
ごめんなさい…
>>126
その言葉が素直に嬉しい…

賛否両論みたいですが、寝て起きたら続き書きます

[125]

#1282006/03/25 12:05
125ガンガレ、オレは楽しみにしてるぞ〜

[匿名さん]

#1292006/03/25 22:23
「ぅっ……う…っ…!!」

部屋に響く、小さな嗚咽。

(……話すべきではなかったか)

志貴——七夜 志貴は、遠野 志貴を殺したことを伝えた。ここにいるのは遠野 志貴によく似た、別人だということも。
真新しいYシャツに袖を通し、ズボンのベルトを締める。
ふと翡翠を見ると、服を着ることも忘れて泣きじゃくっていた。
その小さな、華奢な背中が震える度に、

——俺は、何だ?

亡者には心などないと思っていた。
が、この、締め付けられるような痛みは"何"だ?

……いや、いい。
どうせこいつも、殺すのだから。

冷静な自分を取り戻し、美しい首筋に刃を添える。
ほのかに桜色をしたうなじが艶やかで色っぽい。

とん……

翡翠が身体を傾け、七夜に全身を預けた。
嗚咽は少しずつ治まり、今は肩も震えない。

「……!?」

とくん。とくん。

(…おかしい。心音は確かだが、生気がない…)

「早く…してください……」
「………ッ!!」
「……志貴、さま…」
「違う。俺は、」
「早く…」

何故だ…何故、俺を志貴と呼ぶ。
俺はお前の知っている志貴ではない。だから、俺は志貴と呼ばれるべきではない。
確かに志貴という存在ではあるが、実質は何の面白みもない亡者でしかない。

「……やめだ」
「…え……?」
「"死にたがる人間"など、永劫を彷徨う亡者と変わりはないだろう」
「…………」
「亡者など切ったところで何を得られるわけでもない。今のお前は殺す価値がない」
「…そんな……っ」
「じゃあな。縁があれば、その時に殺す」

声を殺した泣き声を胸にとどめながら、俺は遠野の家を後にした。



続く

[125]

#1302006/03/26 00:16
「……さて。そろそろ夜が明ける頃なんだが」
「どうしてあなたがここにいるのかしら?」
「その理由を聞く必要があるのか?」
「……私を殺せばあなたも消えるのよ…?」
「それは脅しのつもりかい?そうだとしたらナンセンスにも程がある」
「……呆れたわ。あなたはもう少し利口だと思っていたけど」
「"利口"ね…」

音もなく、右腕を一閃させる。
まるで"居心地が悪いので身動ぎをする"かのように、自然な動作だった。

「…そう。分かったわ」

目の前の少女の、美しい銀髪の数本がはらりと落ちる。
それが合図。
白い衣を纏った少女が両手を上げると同時に、素早くその場から低い軌道で飛び退く。
少女が腕を振り下ろすと、一瞬前まで立っていたその場に氷柱が突き立つ。

「……遅い。全く、先が思いやられるな」
「…っ!!」

氷柱の影に隠れるため、姿勢を落とす。
ただし、雪を蹴り上げないように静かな歩行で接近する。

「………む」

氷柱が消え、眼前に現れたのは、

「アン、」

爆発的な力が収束し始める。
踏み込みは間に合わない。
待機中の潜水艦がエマージェンシーブローをするようなもので、肉体に負担が掛かり過ぎる。

「ドゥ、」

(…芸がないが、仕方がないな)

「トロ……っ!?」

足下から雪を掬い上げ、相手の顔にブチ当てる。
冷たい雪の塊をまともに食らい、驚いた少女の力が霧散する。

「……許さない…っ!!」

しかし、瞬時にそれを超える力の収束を感じる。
気配で感じるのではない。肌で感じる程に大気が冷たく振動している。

「…純白の衣は着ていても、その表情(かお)じゃあシンデレラは務まらないな」
「…黙りなさい!!」

氷柱が四方八方から迫り来る。

(……翡翠)

なぜそんなことを考えたのか、分からない。
分かる必要はなかったし、考えるより早く俺は叫んでいた。

「…叶わぬと知りながら、一人の男を想い続けた翡翠の方がシンデレラには相応しい。
お前がどんなに綺麗に咲く花だろうと、俺は春を待ち続ける水仙の蕾の方が"好き"だ」

言ってから、気付く。

(…好き?何を言ってる?
目を覚ませ。俺は亡者だ、好きや嫌いなどの感情はない。……ない、はずだ…)

「戯言ね…!!」

[125]

#1312006/03/26 00:51
迫り来る氷柱のスピードが上がる。
完全に包囲されている。逃げ場は空しかない。だが、動きの不自由な空中は的になる。
小さな舌打ちをして、七夜の短刀を低く構える。

——閃走、

身体に大きな負担が掛かる、七夜秘伝の歩法。
……内に眠る人外の血が騒ぎ始めた。
目を細め、前方だけを見据える。
氷柱と氷柱の間隔は、30cmといったところ。
次弾が放たれるまでは約1秒。
口許が自然と緩む。

——水月

瞬間、全身が音もなく動く弾丸と化す。
目の前に氷柱が現れる。
その氷柱の側、30cm以内で立ち止まれば次の攻撃を躱せる。
が、

「…ッ!?」

雪に足を取られ、身体のバランスが傾く。
氷の柱に貫かれれば…死んでしまう。
辛うじてそれを避けたとして、転倒し損ねている標的を見逃すわけがない。

「………」



結局、一睡も出来なかった。
主の帰りを待っていた。帰らない主を、待っていた。

正直に言えば、好きだった。

志貴様が微笑んだり、困っていたり、落ち込んでいたりするのが、好きだった。
アルクェイド様が現れた頃から、朝帰りや外泊が見られるようになった。心配になって玄関の前で立っていた。
「次からは待ってなくていいよ」と言われて悔しかった。意地を張って「ロビーでお迎えします」などと言って、困らせてしまった。

その主はもういない。

だから、天秤に掛けている。
"生"か"死"か、このナイフに全てを委ねている。
窓の外の空は明るみを見せていて、夜明けを感じさせた。

[125]

#1322006/03/26 01:28
「……翡翠、か。苛めたくなるくらい綺麗な名前を持っているじゃないか、全く」

独り言を放つ。何度となく繰り返した癖が出る。
目を細め、口許を歪める。

左手で力一杯、目の前の氷柱を殴り飛ばす。
水月の加速のお陰か、氷柱が文字通り破壊された。
崩れた体制のまま、足に力を入れて踏み切る。
そう、それはまさに"独楽の回転"。

「極死…」

右手のナイフを放つ。全身の回転を加えた刃は、恐ろしい速度で少女に向かう。
同時に、軸足を突き出す。

地面に平行して飛来するナイフと、それに追いつく速度で飛び上がった影。

「……デタラメ…!!」

少女がそう漏らすのも無理はない。
これまでの動きのどれもが化け物じみていたように思う。
だが、これは違う。この一連の流れは最早ある種の美しさすら感じる程の華麗さなのだ。

防御用の氷を前面のみに展開する。力の拡散を防ぐために。
全力を注いだその盾で、攻撃に対して身構える。


………衝撃があった。

ただし、頭上から。
確かめるまでもない。それは頭を鷲掴みにしたまま、地上に降り立った。

時間差攻撃だった。完璧なまでに計算されていた。
同時に襲い来ることを前提としていた。氷の盾でナイフを防ぎ、本体の攻撃は身を捻ってでも躱すつもりだった。
氷で視界を遮ってしまったことが仇になった。

「…七夜」

投げられた。
身体が空を舞い、そして。
酷くうるさい音を立てて氷をブチ抜いてきたナイフに、串刺しにされた。

「……俺は、俺を呼ぶ者を…」

…違う。難しいことを言う必要などどこにもない。
誰が聞くわけでもなく、誰に言うわけでもないのだから。
俺はもうすぐ消え、また亡者共と彷徨うことになるのだから。

「………お前は気に食わない。自分だけがシンデレラだと思うな」

そして、夜が明けた。

[125]

#1332006/03/26 02:06
「……あ…」

夜が明けてしまった。
本来なら主を起こすべき時間だが、今はこうして主のベッドで自分の手首にナイフを宛てている。
昨日までの日常が一夜で崩されてしまった。
もう、二度と帰ってこない。

「……っ…」

目を、閉じる。深呼吸もする。
そして……右手を勢いよく引く。
左手から徐々に血の気がなくなり、ぬるりと液体が滑り落ちるのが分かる。
と、

キィ……

扉が開く音がした。

(…こんな所を姉さんや秋葉様に見られたら……!!)

慌てて部屋の入口を見ようとするが、

「目を開けるな」

声は後ろから聞こえた。耳に熱い吐息が吹き掛けられる。
その行為に一瞬だけ身を強張らせるが、

「目は開けるな。ショック死してもおかしくない」

手首に体温を感じる。そして、その少し上に何かが巻き付けられる。

「大きめの布はないか?」

手首が何かで拭われた。
ここまで来て、不思議と頭は冷静だった。

「…エプロンの内ポケットに三角巾があります」
「分かった」

服をごそごそと探られる。
が、それだけなのに身体が何かを感じ始める。

「顔が赤いぞ」
「も、申し訳あ……ゃ、ぁ…っ」

左の乳房を持ち上げられ、先端の突起をくりくりと指先で捏ねられる。
同時にエプロンの下、下腹部を弄られる。
快感がダイレクトに伝わり、腰が自然と動きだす。
こんなことで熱く潤みだす身体を呪いながら、精一杯の声を上げる。

「ゃ、んっ……それより、もっ、手首の傷、っ!!」
「とっくに終わってる。目を開けてもいいぞ」

恐る恐る目を開く。
左の手首にしっかりと布が巻かれていた。出血の心配はなさそう。
だが、どうして右の手首にも巻かれている…?
いや…そもそもこれ、繋がってるんじゃ…?

「……あの、志貴様。両手が離れません」
「抵抗されると面倒だ」
「…志貴、さ、ま……ダメ、です…っ!!」

にゅぷ……っ

「……翡翠、何の音だろうな」

にちゃぁ……

にゅる…ん

くっぷ……っ

顔が赤くなるのが自分でも分かって、身体の奥が激しく疼き出した。

「ぁ、の……」
「どうした?」

一泊置いて、言葉を紡ぐ。

「………欲しい、です…」

その懇願に、七夜は口許を歪めた。



終わり。

[125]

#1342006/03/26 22:06
押忍、おつかれっす

[匿名さん]

#1352006/03/27 19:36
125GJ!!ついでにあげ

[匿名さん]

#1362006/04/01 17:35
切ない王子だなぁ…125氏GJ

[匿名さん]

#1372006/04/07 00:00
動け!

[匿名さん]

#1382006/04/09 17:51
じゃあ、動かそうかな……。


琥珀は、今日もご機嫌だった。
掃除はやらせてもらえないので、終わった昼食の食器などを盆にまとめて、可愛い
翡翠ちゃんの待つキッチンに向かっている途中である。

「いっけいけGO、GO、メカ翡翠ちゃーん。派手に激し…」

と、呑気に流れていた鼻歌が、目の前で急に開いたドアに遮られた。
といっても、屋敷の住人たちは翡翠ちゃんを除いて全員リビングに居るから、今ここから
出現するのは、少なくとも玄関はこっそりと通り抜けたか、あるいはその他から入ったか、
いずれにせよ余りお行儀のよろしくないお客様という事になる。
……ドアから出てきたのは、足音だけだった。
正確には、一番高い頭頂部でさえ、琥珀の目線よりももう少しだけ下にあった。

「やっと見つけたわ」

腰を超えるほどの長さなのに、綺麗にまっすぐ整った白い髪。
それに負けないほど、白く艶やかな肌からは、幼さに反した色香も滲み出ている。
加えて、全身の装いまでも白で統一させたその白い少女は、無粋な登場の仕方を差し置いて
も、一つの美として完成されていると言ってもいい可憐さを持っていた。
その、やや吊り上がった目で少女は琥珀を見上げる。

「あらあら、白いレンさま。本日はお一人ですか?」

琥珀は、会話の先手を打った。
別に何の意図があるとかではなく、ただ先に声をかけただけの話なのだが、白いレンという
少女にとって、それはどちらかと言うと不愉快なものであったらしい。
更に少しだけ目を吊り上げて、にこにこ顔の琥珀に話を合わせてきた。

「本当に、広い家。あなた一人探すのに、もう十分近くは取られたわ」
「それでしたら、呼び鈴を押して頂ければ良いですのに。あ、志貴さん達でしたら、丁度
 いまリビングでお茶をされてますよ」
「……それをしたくないから、貴女だけを声も出さずに探していたのよ」
「ですよねー。でも、どういったご用件で?」

白レンも、そして琥珀も最初から、声はある程度抑えて話している。
リビングから近くはないが、広いとはいえ閑静そのものな屋敷の中は、場所によっては
山彦じみたものが狙えるほどに声が響くのだ。

「ええ、と……。その食器、あなたキッチンにでも行くのかしら?」
「はい。昼食をお料理した際のお片づけは、もうしっかりと出来てますよ」
「……なら、ご一緒させて貰おうかしら」

ええ、と小さく頷いて、どちらともなく、自然と二人が揃う形で歩き始めた。
……白レンの方はともかく、琥珀にとってこの訪問は、何ら突然というものでは無い。
指定はなくとも、必ずあると知っている出来事が、今日になって来たというだけの話。

「いっけいけGO、GO、メカヒスイちゃーん。派手に激しく行っき…」

白い壁が続く廊下には時折、日めくり式のカレンダーがかけられている。
すれ違う二人に対して、それは二月を十と四日過ぎていることを伝えてきた。
今朝それをめくった琥珀は、見向きもしない。
改めてそれを確認した白レンは、少し吸い込まれるように見入っていた。

「……何なのよ、その変てこな歌は」

通り過ぎて、再び目線が前方に戻った白レンがぼやいた。

「名付けて『見敵必殺・メカヒスイちゃん』! レンさまも歌ってみませんか?」
「……そんな歌じゃ、ワルツの一つも踊れないわ」

台所には、翡翠ちゃんがいる。
もちろん琥珀にできない食器の片付けのために来てくれているのだが、その後で琥珀の
淹れたお茶たちを、リビングに運ぶというお役目もある。
早い日なら、その直後から琥珀が台所で夕ご飯の下ごしらえを開始することは珍しくない。
だから、琥珀だけがキッチンに一人で入り、残るのは、とても自然で簡単である。

「そういえば。あなたは作れるのよね?」
「もちろん! お菓子だからって専門外なんてことはありませんよ。
 何より、今年は私も作ってみようと思っていましたし……」

きゃー、とわざと頬を赤くして、ぶりっこポーズを演じてみる。
それを横目で見ると、白い少女の目はますます細く吊り上がった。


.

[琥珀さんのお薬 1-1]

#1392006/04/09 17:52
「……なんだ、こりゃ?」

皆がリビングから去り、トイレから戻った志貴も、最後のお茶をすすってから
戻ろうかと思っていた所に。
いつの間にか……というか、確実にトイレに行っている間に。
茶菓子入れの中に、なんとも奇妙な物体が追加されていたのである。

「…………」

ドアの隙間から覗いている琥珀は、未だご主人さまが困惑した顔のまま固まって
いるのを、愉快そうに眺めている。
お茶には、利尿作用がある。
わざわざそういう薬を盛るまでもなく、志貴がお茶を飲み終わる前にトイレに行く確率は
高かった。その時間があれば、廊下の死角からこっそりリビングに入り、また出て死角に
まで戻るという忍び技も楽勝である。

「ああ! チョコレート、か? これ」

一人ぼっちの部屋で、一人手を叩いて納得している。
まぁ、いくら鍋敷きみたいな大きさと平べったさで、白一色で、ミステリーサークルを
そのまんま写したような幾何学的な形をしていると言っても、ちょっと指でつまんで
舐めてみれば、それがホワイトチョコの塊であることは誰にでも分かるはずである。

「って、言ってもなぁ……もう十分に茶菓子は食べたし。
 ま、このまま置いとけば夕飯か、遅くても明日には秋葉か誰かが食うだろ」

半ば捨て置くような形で、円盤チョコレートを茶菓子入れの中に戻す。
ざわ、と。
無数の針が風になって吹き抜けるような雰囲気が、リビング中に広がった。
が、間違いなく一番それを感じるべきであろう志貴本人は、いつも通りのほほんと
した動作で立ち上がり、既に琥珀が退避した後のドアを開け、さっさと自分の部屋に
向かって、足音を遠くして行ってしまった。

「……やっぱり、志貴さんは志貴さんでしたねー」

琥珀は一人呟いて、志貴の去ったリビングにこっそりと入り直す。
そして部屋の奥、ちょうど志貴の後方にあったソファーの所まで歩いていき、さらにその
死角となっている背中側に、頭をにょっきりと覗き込ませた。
そこには、誰もいなくなったはずのリビングへの、もう一人の来客が潜んでいた。
背中を丸め、膝をかかえ、頭をそこへうずめている。
丸めた背中はかすかだが震え、膝をかかえる手は、腕の袖を強く握り締めている。

「だから、言ったでしょう?」
「…………」
「人に自分の気持ちを伝えたい時には、面と向かって、言葉で示すのが一番なんです。
 言わなくても分かる思いなんて、所詮はお互いが好都合な解釈をし合うだけの儀式に
 過ぎませんし、そうでなくても人と人とは完全に分かりあうことが出来ません。
 ですから、せめて正面から自分を見てもらって、正面から自分の言葉で話して、出来る
 だけ多くを相手に見せて、それでやっと本当の気持ちの一部が伝わってくれるんです。
 文字だの絵だのチョコレートだのは、それを演出するための飾りに過ぎません」
「……分かってる」
「例えば今、志貴さんがチョコを食べて下さったなら、それはもう幸せでしょう。
 でも、貴女が伝えたかった事はそれで伝わるのでしょうか?
 伝わった気分に浸るのは、とてもとても楽しいことですけど、貴女の気持ちが偽りで
 ないし、消えもしない以上、いつかは伝えなくてはならないんですよ?」
「分かってるわ!」

琥珀の説法を食い止め、あるいは弾き飛ばすような気勢で白レンの高らかな声が響いた。
例えその顔が赤く、濡れて歪んでいても、その凛とした可憐さには何の変わりもない。

「ええ、分かってるわよ。私は逃げたの。ただそれだけ。
 でも、もう止め。もうおしまい。終わりにする。
 志貴ったら……絶対に、許さないんだから……!」

唸るが早いか、背にしていたソファーを一足で飛び超え、琥珀の存在など忘れたかの
ようにリビングを一直線に出て行った。
小さな体で精一杯出す、豪快な足音が、静かな廊下に気持ちよく響きながら遠のいていく。

「ふふ」

素直じゃないという行為は、要するにこの上なく素直という証拠だ。
それを隠したいから、逆を演じる。
演じる必要性さえ消えるか、一時的に忘れさてしまえば、抑えられていたバネのように弾けていく。
もっとも、長い間押されているほど”くせ”がついてしまい、容易に戻るものではないのだが。
それでも、いくら押されようと、バネの弾力が無くなることはい。
いつまでも、いくらでも同じ方向に弾けていく。

「さぁて、お次は志貴さんのお部屋のカメラとマイクですけど……」

[琥珀さんのお薬 1-1]

#1402006/04/09 17:53
先ほどまでの沈痛なお面持ちはどこへやら、琥珀は愉快そうな表情と軽快な足取りで、
白レンとは違う方向に部屋を出ていった。

「いっけいけGO、GO、メカヒスイちゃーん。派手に楽しく行っきまーすよーっ」

るんたった、るんたった。


.

[琥珀さんのお薬 1-1]

#1412006/04/09 17:53
琥珀がモニター室に着き、インカムを付け、モニターを覗く頃には、既に激突の瞬間
そのものは終わっているようだった。

「ご、ごめんってば……」

狭い室内には、身体ごとそっぽを向いて押し黙っている白い少女と、それよりも普通に
目上であろう外見をしながら、正座して彼女に平謝りし続けている少年の姿があった。

「本当にゴメン! 知らなかったんだって!」

こういう謝り方をするあたり、志貴は本当に愚鈍のニブチンの朴念仁だと言える。
相手が何よりも意識して、何よりも懸命に思っていた日を、例え不可抗力とはいえ
知らないだの、忘れているだのと口にするなど、謝罪の文句としては論外レベル。
証拠に、ますます白レンのほうも目と口を尖らせてしまっている。
……のが、部屋中に死角なく設置された隠しカメラからの中継に映っている。

「美味しいよ、このチョコ、凄く。お世辞じゃなくて」

謝り方が、自虐から賛美になった。
これはまぁ、効果的。例え99%お世辞だとしても、それを懸命にやった側にはその1%が
何よりも嬉しく染みる。
白レンも、よく見れば冷静さを取り戻し始めている。
志貴の賛美を切り口に、時間が経つにつれ、白レンの尖りっぱなしだった口元が妙にむず
むずと動き始め、細く閉じたままだった目も、ズームインしてよく見れば、時たま薄く開けて
背後にいる志貴の様子が見れないかと努力している。

「ふぁいと、ふぁいとーっ!」

完璧な防音のなされたモニター室で、琥珀が拳を握って手だけでチアガールの真似事を
一人でし始めた、そのすぐ後。
白レンがバネ仕掛けの人形のように、一気に180度回転して志貴と向き合った。
相変わらず釣り上がっているが、今度ははっきりと見開かれた目。
やはり尖ったままだが、何かの決意を思わせる、必死に引き締めた口。
それらの境目である頬は、白い肌のなかにあって際立つように赤く紅潮している。

「……志貴」
「はいっ」
「許して欲しいの?」
「え、うん、そりゃもう……」

今まで白レンが激怒し続けていると思っていたのだろう、志貴は豚が真珠を差し出された
ような呆気に取られた表情を、反省の色に染まった顔に混ぜた。

「じゃあ。……ろ、して」
「え?」
「……こ、ろして」

聞こえないのは、決して志貴の耳が悪いわけではない。
実際、床下の浅い部分や座布団の中に取り付けた盗聴器ですら、琥珀のインカムには
ろくな音量を届けられていないのだ。

「こ……ろころして、頂戴」

ようやく全体が聞き取れる声量になったのは、二桁に届くほどの言い直しの後だったろうか。

「ころ、ころ?」

ころころ。
猫が喉を撫でられるなどした際に発せられる奇妙な音については、未だに動物学、科学的に
明確な根拠は出ていない。そもそも威嚇としても暗号としてもあまりに拙いその音量は
役割からして不明であり、世界中の学者たちが競って仮説を立てている最中である。
———三咲書房、『動物のふしぎ』より抜粋。

「ほ、ほら。早くしないさいよ……!」

悪態をつきながら、身を乗り出し、顎を上げて喉をあらわにする白レン。
目は再び閉じられ、口は先ほど以上に引き絞られ、頬はますます赤みを増している。
その細く滑らかな首筋は、うなじとはまた別の美しさと、可愛さを併せ持っていた。
見た目も、その態度も十歳そこそこの少女のそれだと言うのに、こういった行為をする際に
かもし出す色香だけは、歴戦の女優も敵わない。
志貴もまた、そのギャップに戸惑いがそのまま顔に出ている。

「…………」

もう白レンは、何も言わない。
そんな沈黙が———十秒だろうか、十分だろうか。とにかく続いたのち。
志貴の右手、人差し指が、ゆっくりと……優しく、白レンの細い首筋に伸びていった。

「! っん……」

本来なら、猫がされる行為なのだから、猫の形態に戻った方が良いはずである。
しかし白レンは戻らないし、志貴もそれを促さない。
ただ、無情に身を任せている少女と、その首筋だけを丁寧になぞり続けている少年の
姿だけが、何秒か、何分か、何十分か、誰も覚えていない時間だけ、そこにあり続けた。


.

[琥珀さんのお薬 1-3]

#1422006/04/09 17:55
遠野邸のリビングルーム。
本来はもう閉めるべきカーテンも、月がよく見えるという事で一つだけ開いている。
墨のように無機質ではない、どこか妖しい黒の中に、綺麗にぼやける光が一つ。
夕方から夜にかけて、急に曇が増えてきたらしい。

「兄さん、翡翠のチョコレートはもう食べてあげたのでしょう?」
「え? あ、ああ。朝飯のあと、お茶と一緒に食べたよ。美味しかった」
「志貴さま……」
「まったく。そういう事は、普通いの一番に言ってあげるものです。だから私は……」
「いや、せめてバレンタインデーって事くらい言ってくれないとなぁ。
 と言っても、さすがに秋葉みたいな、口に強引に押し込むのは勘弁して欲しい」
「そうでもしないと兄さんは、お腹が膨れているとか、お茶とは合わないとか、何とか言って
 結局は後回しにされるのでしょう? 私は最適の方法を取ったまでです」
「そうでしょうか? 内緒でおチョコを作って、密かに置いて、食べてもらうのを待つ!
 秋葉さまには、そんなロマンチックさも必要かも知れませんよー?」
「そ、そんな恥ずかしいマネ、誰がするもんですか!」
「あらあら。……だそうですよ、白レンさま?」
「うるさいわね……。貴女、そんなに私をからかうのが楽しいのかしら」

いつもの遠野邸の四人以外に、特別に設けられた椅子に鎮座している五人目があった。
白い髪、白い肌、白いコート。
椅子までアイボリーの白物を用意したのは、琥珀の軽い冗談プラス洒落である。

「まあいいわ、ご馳走様。夢の時間も近いし、私はそろそろ帰るわよ」
「お帰りですか? 何でしたら、泊まっていかれても……」
「これ以上、どこかの愚鈍な男と一緒に居たら、調子が狂って仕方ないわ」

白レンの細めた目がキッと横に流れ、志貴がそれから苦しげに目線を逃がす。

「むしろ貴女の夢を喰べ荒らしてあげたい所だけど、そっちの趣味はないし」
「きゃー、それだけはお許し下さいまし」
「琥珀さん……」

いつも以上にはしゃぐ琥珀と、それを不愉快そうに睨む白レン。
そんな二人を呆れた、よく言えば微笑ましい目にもどって見る志貴。
今日の出来事を知らない翡翠と秋葉は、自然と二人で蚊帳の外の会話を始めている。
一人が加わったとはいえ、和やかには変わりない遠野邸の夜のティータイムだ。

「志ー貴ー! おーいっ!」

そこに、明らかに外からの声が響いた。
もう暗闇に包まれてからだいぶ経つこの時間に、呼び鈴も鳴らさず敷地内に入り、
さらには迷惑もかえりみず大声で呼び叫ぶ。

「あら、おいでになったみたいですね」

琥珀は、まるでお待ちかねとでも言わんばかりに、窓を開けた。
その瞬間、ゆうに地上から十メートル以上あるはずの窓から影が一つ。
それにくっついて、もう一つ。それを追うように、さらに一つ。
合計で三つの客が、突如リビングに乱入した。

「やっほー志貴。ほら、見て見て!」
「…………(もじもじ)」
「アルクェイド、どうして貴女がここに来るんですか!」

外国のグラビアアイドルのような、金髪の女性。
白レンをそのまま黒くしたような、寡黙な少女。
シスターか何かのような格好をした、ブルーショートヘアの女性。
三人とも、手に手に大小様々なチョコレートを持参している。

「あ、アルクェイド、レン……それに先輩!?」
「確か今日が、バレンタインとかいう日でしょ? ほら、チョコレート!」
「だから、どうして貴女が遠野君に!」
「ふーん、シエルなんて夜の見回りのついででしょ? 程度が知れるってもんよ。
 ほら、大きさにだって愛の量が現れてる」
「そんなボウリング玉みたいな化け物チョコ、彼が食べられる訳ないでしょう!」
「…………(じーっ)」
「あーほら、レンもシエルのは駄目だって言ってる。二対一だね」
「何ですってえ!?」

三人で。
少し経つと、秋葉も参加して四人で。
罵声を浴びせ合い、髪を引っ張り合い、取っ組み合い、殺し合い。
リビングルームは、殺気と熱気と怒気と衝撃波が入り乱れる、戦いの場と化していった。
志貴は「どれか選んで!」を切り口に、見るも無惨な形で巻き込まれていき。
翡翠は直接の被害こそ無いものの、飛び散る家具やら何やらの片付けに大忙し。
白レンも、参加はやや遅れたがいつの間にか、黒レンと一緒にどたばた騒ぎの盛り上げ役の
一人になっている。

[琥珀さんのお薬 1-4]

#1432006/04/09 17:57
「くすくす……」

直接絡まれる要因のない、というより自ら作らなかった琥珀は、自然と皆の意識から
外れていった。
そうして、ほぼ完全に外れたかなという所で、密かにソファーを立ち上がり、昼間
忍びこんだ時と同じように、音を立てないよう部屋を出て行った。
……やや歩いて、台所。
流し台は、まだ散らかっている。夕ご飯の後片付けも含めて、あとで可愛い翡翠ちゃんが
一生懸命やってくれるのだ。
琥珀は、視線を流し台とは逆の、広い作業台に移した。
その上には八人分のティーカップ。それと小皿がセットで置いてある。
小皿には、二つの円形の凹みがある。一つはティーカップ、一つは軽いお菓子などを乗せ
られるという設計だ。
もちろん、片方にはティーカップ。
そしてもう片方には、それぞれ色鮮やかなチョコレートが並べられていた。
どれもハート型で、ホワイトとミルクを重ね合わせた見事な作品。形状も滑らかで装飾も
繊細、普通に見ればプロが作ったものと誤解しそうな出来栄えだった。

「ふふ」

琥珀の目線は、その中のひとつに向いている。
たった、ひとつ。
少しだけ。本当に微妙ながら、他より大きいんじゃないか? という程度の違いのある
チョコレートが、ひとつだけあった。
よくよく見れば、装飾の掘りについても、微妙に他のものよりきめ細かい気がする。
琥珀はそのチョコと同じ皿に乗っているティーカップを、ひょいっとつまみ上げ。
———軽く、ふちにキスをした。

「……あら? どうやら、一段落ついたみたいですね」

この台所にまで響いてきていた、どたんばたんという騒音が、ひしと聞こえなくなった。
キスをしたカップを元の皿に乗せ、さらに残りの皿とお湯を入れたポットをトレイに
まとめて乗せ、やや力を入れて持ち上げ、台所を出た。

「いっけいけGO、GO、メカヒスイちゃーん。派手に激しく行っきまーすよーっ」

呑気な鼻歌が、静かになった廊下を気持ち良さそうに流れていく。
琥珀は、今日もご機嫌だった。


...To be continued

[琥珀さんのお薬 1-4]

#1442006/04/09 17:58
しまった
>>139-140が1-2です。

[琥珀さんのお薬]

#1452006/04/10 11:18
さて、そのチョコの中には何がまじってるのやら?GJ!

[匿名さん]

#1462006/04/10 14:54
久々にほのぼのした気がする。GJb

[匿名さん]

#1472006/04/12 01:40
動かないね……もいっちょ行くか。



琥珀は、今日もご機嫌だった。
買い出しに行ったばかりで豊富な食材の数々から、選りすぐった精鋭たちを、
腕によりをかけて立派な昼ご飯へと調理する。
志貴も秋葉も学校に行っているので、これを食すのは今屋敷に残っている二人
きりなのだが、それでも可愛い翡翠ちゃんに食べさせるものとあれば、自然と
手間も愛もかけたくなるというものだ。

「翡翠ちゃん、はいターッチ!」
「……交代です」

出来上がったのを運ぶのは、先ほどからずっと後ろに立って見学していた翡翠。
琥珀は掃除が苦手といっても、べつにお膳の運搬という行為にまでその不器用さは
及んでいないのだが、それでも何となく、調理までは琥珀。運搬と片付けは翡翠という
感じに、いつの間にか線引きがされている。
そして今日もいつも通り、翡翠に運搬からの役目をハイタッチしようとした所で。
空中に控えめに待機されていた翡翠の手を、琥珀の手がすり抜けた。

「?」

二人の疑問符の内容は、同じだった。
キャッチボールで間違いなくグローブに収まるはずだったボールが、別に突風などが
吹いた訳でもないのに、目の横を通り過ぎて地面に向かっていくのを見たような感覚。
それが、琥珀の膝が不自然に、ほんの少しだけ折れたせいだと理解するのも、やはり
二人は同時であった。

「姉さん?」
「あら、何でしょうね。とにかくもう一回、はいタッ———」

やや焦って構え直された翡翠の手に、再び軽快に向かっていく琥珀の手。
しかし、またしても琥珀の手が一方的に、その軌道を乱して外れていった。

「え、あ……変、ですね。からだ、う、ご……」
「姉さん!?」

コンセントを抜いたように。電池が取れたように。操り人形の糸が、切れたように。
本当にあっさりと、何の抵抗もなく、琥珀はその場に崩れ落ちてしまった。
翡翠が咄嗟に頭を抱きかかえるようにして落下を抑えなかったら、台所の硬い床の上か、
最悪、作業台の角に頭をぶつけていたかも知れない。

「姉さん、姉さん!」

目も半開きのまま気を失っている琥珀に向かって必死に呼びかけるが、そのまぶたすら
ピクリとも反応を見せない。
抱き寄せるうち、翡翠は自分の腕の中の温度の異常さに気が付いた。
そして次に思い浮かんだのは、琥珀が先日の夜、二月も終わろうとしている時期なのに
持ち合わせが無いからと、ろくな上着も羽織らず買い出しに出掛けた時の光景だった。


.

[琥珀さんのお薬 2-1]

#1482006/04/12 01:40
琥珀は、茹でたように真っ赤な顔の中で、いつも通りの微笑みを浮かべていた。

「あたまのなかで、メカヒスイちゃんがぐーるぐるー……」
「大人しく寝ていて下さい」

翡翠は、琥珀を自分の部屋に運んだ。
最初は琥珀の部屋に運ぼうと思ったのだが、以前入ったとき床一面に、正体と意味が
不明な物体の数々がうごめいていたのを思い出して、やめた。
今度、姉さん同伴のもとじっくりとお掃除せねばなるまい。

「翡翠ちゃんのふとん、あったかいー」
「……はい、ティッシュの替えです」

生憎とボックスは切らしていたので、ポケットティッシュで代用している。
琥珀の枕元に移動させたごみ箱の底は、もう丸められたティッシュに埋もれて見えない。
……ずいぶんと意識を失ってはいたが、いざ覚めてみれば、倒れた時ほどの深刻さは
流石に消えているように見えた。
出る鼻水はかみ、額を濡れタオル、頭を氷まくらで程よく冷やしているし、あとは
大人しく寝ていてくれれば、そう大事にはならないだろう。
もう何度目だろうか、最初から数えてはいないが、ふやけて赤色が失せてきた手で
翡翠は琥珀の額のタオルを取りあげ、先ほどボウルごと替えてきた新しい冷水につけ
て、細い腕で力いっぱい絞りこむ。
それを額に戻してあげると、琥珀は赤ん坊のようにきゃー、つめたーい、と無邪気に
はしゃぎながら、さも気持ち良さそうに再びベッドに身を任せるのだった。
翡翠は、懸命さできつくなっていた口元を、初めて緩めた。

「あ……」

多少の安堵感が、今まで琥珀に向かいっぱなしだった気を外に向けさせた。
部屋の窓が、もうすっかり黒い。
もしかして、と思い時計に目を走らせたが、五時。夕方を終えた程度。
翡翠は、ほっと胸を撫でおろした。よもや帰還するご主人さまを出迎えしそこねた、
などという事態には陥らずに済んだらしい。
何しろこの時計、一時間ごとにきちんと”鳴く”ように出来ているのだが、少なくとも
五回くらいは響いたであろうその音を、翡翠は耳で聞いた覚えが全く無い。
何にせよ、ご主人さまの帰還はこれから。
特別な用意が要るわけでもないが、きちんと出迎えの準備をしなければいけない。

「くー、くー……」

琥珀は、紅潮はしているものの気持ちよさそうな顔で寝息をたてている。
これなら、秋葉と志貴を出迎える間くらいは大丈夫。
そう思い、ぬるくなってしまった水をボウルごと持ち、あとはカーテンだけ閉めて
おこうと、窓の方に向かった。
……が、途中でぴたりと足が止まる。
出迎え。
これから翡翠は、それをする。
しかし、それだけだったか。いつもなら本当にそれだけなのだが、確かその前に
開始して、そして七時頃には完成させておかなければいけない事が、何か。
翡翠でなく、今は動けない琥珀がいつもやっている、何かが……。
その結論に辿りついた時、自然と翡翠のおなかが、可愛らしい音できゅるる、と鳴った。
翡翠にしか聞こえない程度の音量なのに、思わず一人で腹を抱えて赤面してしまう。

「う、ん……しょっと」
「あ、姉さん!?」

背中に届いたかすかな声で、窓から一転して振り返った翡翠は、なんと琥珀が
普通にベッドから立ち上がり、部屋から出ていこうとしているのを目撃した。

「何をしているんですか、ちゃんと寝て———」

翡翠の言葉は、そこで途切れた。

「ふふ……新開発の瞬間睡眠薬、ぐすりんQ。
 数え切れない植物・薬剤を精密なバランスで配合し、特殊な味付けを施して七日七晩。
 成分は決して検出されず、効果も数倍! さらに血管から食べること……で……」

おっとと、とよろめいた琥珀の手から、注射器が落ちて床で割れた。
漏れていく”ぐすりんQ”が、高級な絨毯にまで流れてコンソメ色のシミを作っていく。

「あらあら……。ま、お掃除でしたら翡翠ちゃんにお任せです。
 でも、こちらは私の仕事ですから、ね……おっとと」

ふらつく足、震える手、口しか笑えていない顔。
琥珀は、よれよれの糸で吊り下げられた人形のように、廊下を一人歩いていった。


.

[琥珀さんのお薬 2-2]

#1492006/04/12 01:41
「琥珀さん!」

部屋のドアが、蝶番ごと外れそうな勢いで開いた。

「志貴さま、騒がしくされては」
「あ……そ、そうだ。ごめん」
「そんなことないですよー。賑やかなのは大歓迎です」

琥珀は自分のベッドに寝転がりながら、厳しい顔で乗り込んできた二人を迎えた。

「風邪ひいてるなんて、言ってくれなきゃ駄目じゃないか!
 廊下で翡翠にたまたま出くわしたからいいものの……!」
「翡翠ちゃーん、約束したじゃないですかぁー」
「……すみません」

これが終わったら大人しく寝るから、志貴さんにはナイショにしておいて下さいね。
目を覚ました翡翠に、明日の夜の分までどっさりと用意したおかず達の配置やら何やらを
メモ書きにして手渡したあと、琥珀がウインクと小指を差し出して言ったことだ。
翡翠も、その震える小指を小指でなく、両手で握って承知した。
たとえ結果的にその誓いがウソになろうとも、とりあえずそれで大事な姉が、今は
大人しく寝ていてくれるのなら安いものだ。
案の定、夕食のあとお茶会にも参加せず、秋葉のお守りも拙いまま「今日はお早めにお休み
させて頂きますね」などと言った琥珀を不審がった志貴に、琥珀へ氷まくらを届ける途中の
翡翠はまんまと出くわして捕まり、全てを白状させられてしまった。

「まぁ、良いです。翡翠ちゃん」
「はい」

琥珀の一言を受け、翡翠はお願いします、と氷まくらを志貴に預けて部屋から去った。
受け取った氷まくらを手に、志貴が琥珀の枕元に歩いてきて腰を下ろす。

「翡翠は悪くないよ。俺が勝手に聞き出したんだ」

志貴の口調に、いつものような敬語は混じっていない。
琥珀はそれを受け、むしろ嬉しそうに微笑みを強めた。

「そうですね、私はいけません。
 志貴さんだって秋葉さまだって、その気になればご飯の調理くらいには困りません。
 あとは翡翠ちゃんが包丁なんかを持って無理に参加しようとするのを、志貴さんが
 『翡翠はいいよ、大丈夫』なんていう感じで止めて下されば、それでいいんです」

志貴は、無言だ。

「風邪なんてものは、初めて患いましたけど……動かないんですね。
 どんな時だって、くいっと引っ張れば動いてくれた手も、足も、体も動かないんです。
 頭の中も何だかくわんくわんしましたけど、それは別に気になりませんでした。
 やっぱり……動かないのは、止まっちゃうのはもう、楽しくありません」
「ごめん、琥珀さん」

いきなり割り込んだ謝罪に、琥珀は一瞬目を見開いた。
けれどすぐに、前よりも柔らかな微笑みに戻して言う。

「志貴さんは、本当によく謝りますね」
「謝るさ」
「別に、志貴さんは悪くないんですよ」
「そうじゃないよ、俺が申し訳ないと思うから謝るんだ」
「くすくす。翡翠ちゃんには何回謝りました?」
「えっと……二回かな」
「捕まえて一回、聞き出して一回? あ、このお部屋に入ってすぐの分が抜けてますよ?」
「ああはい、その節はすみませんでした」
「ほら、また一回」

散らかり様とは逆に閑静そのものな室内に、囁き合うような笑い声が散りばめられた。
くす、くす、くす。

「さて。それだけ申し訳ないのでしたら、少し私も調子に乗らせて頂いちゃいますか」
「あんまり良い予感がしませんね」

苦笑しながら言う志貴を尻目に、琥珀はベッドの枕元をあさって、指でつまめるサイズの
小さなビンを取り出した。コルクのようなもので蓋がしてある。

「ぱんぱかぱーんっ」
「……何ですか、それ」
「ぐすりんQ。簡単に言うと、瞬間睡眠薬です。
 不眠症のあなたもこれで一発解消、三日三晩は目覚めません!」
「別に俺は、不眠症じゃありませんよ」
「それがですねー。目の前に、安静のため眠りたくて眠りたくて仕方のない人が居るんですよ」
「……いや、三日三晩マズくないですか?」
「大丈夫、こうして液状にして薄めれば、効果はすぐですけど全く眠くない人なら
 二〜三時間で目は覚めました。眠い人なら一晩ぐっすり。画期的でしょう?」

などと解説し終えた後。
はい、とビンを志貴に手渡すと、琥珀はその手でちょいちょいと自分の口元を指差した。
そしてすぐ、何とも愉快そうな顔で目をつむり、軽く口を開いて臨戦体勢。
志貴の方も、この意味が飲み込めないほどニブチンではない。
戸惑いと、軽いため息のあと、意を決したように小ビンの中身を口に含んだ。
……眠気は特に襲ってこない。どうやら、完全に飲み込まないと効果は無いようだ。
そうして、二人の唇は近付いていく。
あえて測るなら、3センチ。
2センチ。
1センチ———

[琥珀さんのお薬 2-3]

#1502006/04/12 01:42
「兄さん! いつまで琥珀と……」

長すぎるわ。きっと琥珀の事だから。翡翠は黙っていて。
そんな、廊下から響いてきていた前置きの声を、琥珀はともかく志貴は聞けていなかった。
……実際に達成されたかはともかく、突如部屋に乱入した秋葉にしてみれば、当然の事ながら
新たな泥棒猫の現行犯。
例え迫っているのがどちらであろうと、秋葉の目を通せばそれは泥棒猫。
そして、泥棒された朴念仁にまず矛先は向く。
志貴の唯一の救いは、秋葉の乱入に驚いたせいで”ぐすりんQ”を飲み込んでしまい、
地獄の苦痛が襲い来る前に、意識だけは体外に逃げられたことだろう……。


.

[琥珀さんのお薬 2-3]


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