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日本航空石川の持ち味出た9回の攻撃
劇的サヨナラ3ランの原田の心中
監督の問いかけに「打ちます!」
【日本航空石川3×―1明徳義塾】
1点を追う日本航空石川(石川)、9回裏の攻撃だ。先頭の井川隼吾がヒットで出て、続く的場拓真のカウントが3ボール、四球が濃厚となった場面。中村隆監督は、次打者の原田竜聖に問いかけた。バントするか? それに対する原田の答えが、「打ちます!」だ。的場が想定どおり四球で歩くと、中村監督も、肚(はら)をくくった。同点などとは言わず、ここは逆転狙いだ。本能で打つ原田に任せよう。
そして、明徳義塾(高知)・馬淵史郎監督が「ファーストストライクに気をつけろ。なんなら、ボールから入ってもいい」と伝令を出したその、初球。129キロの甘めのスライダーをとらえると、原田が「打った瞬間、入ると思った」といい、一塁側ベンチで真正面に見た中村監督も「あ、サヨナラか?」と躍り上がった打球は、レフトスタンドに飛び込んだ。逆転サヨナラ3ラン――。
明徳義塾・馬淵監督がうめく。
「9回の攻防という展開のアヤやね。ウチは9回、1死満塁のチャンスを逃し、相手はそのチャンスを仕留めた……」
公式記録の備考欄には、「原田のサヨナラ本塁打は第90回谷合(明徳)以来19回目」とある。そう、明徳義塾は初戦、谷合悠斗の逆転サヨナラ3ランで中央学院(千葉)をうっちゃり、馬淵監督は史上5人目の春夏通算50勝(30敗)を記録していたのだ。
「高さや球種を間違えると、天国と地獄よ」
とは、初戦を突破したときの馬淵監督の言葉だが、逆転サヨナラ3ランで勝った明徳義塾が、逆転サヨナラ3ランで敗れるという“天国と地獄”を経験するのだから、野球はおもしろくて怖い。