前回は
>>528です。
「あいつらなら大丈夫じゃない?なんだか二人とも頑丈そうだし」
なぜそこまで楽観視できるかが疑問だったが、あの二人なら確かになにがあっても大丈夫そうだ。
いや、アルクェイドに感化されてどうする。落ち着け。
「・・・こまめに連絡をとってみましょう。一時間しても応答がない場合、Bチームの捜索を最優先にしましょう」
「おーけい、任せる」
その後私達は、十分の間隔で連絡を試みる。
一回。
二回、三回。
応答があったのは五回目だ。
「こちらCチームです。応答がありませんでしたが、なにかありましたか?」
ぜえぜえと荒い息遣いがトランシーバーの向こうから聞こえてくる。ひどく苦しそうだった。
「敵と交戦した・・・白いレンだった。なんとか倒したが、俺も軋間も重症だ。死にはしないがしばらく動けそうにない。すまないが、親玉探しは任せる・・・痛っ」
一層、息が荒くなる。話すだけでも辛そうだ。
「了解です。ゆっくり休んでください。なにかあれば連絡を。では」
電源を切る。戦力は減ったが、あの二人を苦戦させたほどの敵だ。相手側も相応の戦力を失ったに違いない。
状況は依然膠着状態だった。
「ということです。私達はワラキアを捜索に尽力しましょう」
「それってさ、見つけたら倒しちゃってもいいわけ?」
とんでもないことを言い出した。相手はあのワラキアなのだ。私達二人で倒すことが果たして可能なのだろうか。
倒せないことはないが、こちらも犠牲は覚悟しなければならない。私はまだ死ぬわけにはいかないのだ。
「いえ、Aチームと合流後に戦闘しましょう。勝てる確率は高い方がいいでしょう?」
「ん〜それもそうか」
納得してくれたみたいだ。そういえば、いまだアルクェイドの本気は見たことがない。
いや、本気を見たことがないのはアルクェイド以外もだ。そもそも交戦しているところすら見たことがない。シエル先生と秋葉やアルクェイドがじゃれてるのは何度か見たことあるが。
今の自分は平和に溺れてしまっていた。これでは、何かを守ることなどできはしない。
目を凝らせ。耳を澄ませ。感覚を極限まで高めろ。
平和呆けした自分の体に喝を入れる。高ぶる集中力とは逆に、頭は冷えていく。
いい状態だ。空気の流れすら感じ取れ、思考の分割もすこぶる調子がいい。
「へえ〜なんだかすごく強そうじゃない。普通の人間じゃないとは思ってたけど、そこまで危なっかしい人間だとも思ってなかったわ」
危なっかしい?私がか?考えたこともなかった。私は守るもののためなら命も投げ出す覚悟なのだ。
それが危険視されるのは初めてだった。いや、もしからしたらずっと危険視されたいたのか・・・?
「どこが危なっかしいというのですか?」
率直に疑問をぶつける。アルクェイドから返ってきたのは、予想に反してすごくまともな言葉だった。
「今のあなたからは死んでもいいっていう雰囲気がすごい感じ取れるの。でも、守りきれたとしても、その守られた人はどうなるの?すごく悲しくて寂しいでしょ?そういうのって守ったっとは言わないと思うんだあ」
私は大事な人が死にさえしなければいいとずっと思っていた。でもそれをアルクェイドは否定した。
「その人の肉体は守れても、心までは護れてないじゃん。なんだか、そういうのは独りよがりでしかないよ」
言われて、気付く。私は死んだあとのことなど考えてはいなかった。
私を中心に置き換えると、志貴に守られて志貴が死んだとしても私には迷惑なだけだった。
確かにアルクェイドの言うとおりだった。自分のことしか考えていなかった自分に心底腹が立つ。
すっ、とアルクェイドが手を伸ばしてくる。
「だから、私達は守るものはちゃんと守ってお互い死なないようにしましょ、ね?」
ひどく、暖かくて心強い言葉だった。流れかけた涙を必死に押さえ、アルクェイドと握手を交わす。
「わかりました。生きて、帰りましょう」
それは学校を出るときと同じ言葉ではあったが、私の決意はあの時より一層硬くなった。